スパイス大国に挑む日本企業
実際に、インド人の味覚に合わせた商品を開発し、売り込んでいる日本企業も出ている。日清食品ホールディングスの現地子会社が発売するカップヌードルの多くは、「マサラ」「スパイシー」「ホット」と、辛さを売りにする。インドに多いベジタリアン向けの商品も豊富にそろえる。
スープは現地の食文化に合わせて日本より少量。私が日本でよく食べていたシーフードヌードルは、インドでは「リッチシーフードカレー味」に。何度か試してみたが、一口食べると刺激が広がり、水が欲しくなる。
インドでは、スープ入りの麺を食べる習慣は一般的ではない。それでも、世界ラーメン協会の推計によると、インドの即席麺の総需要は年々増えており、2023年は86億8000万食に。麺を食べる文化が定着しているベトナムや日本などを上回り、中国・香港、インドネシアに次ぐ世界3位につけた。
色が濃いしょうゆ「ダークソイソース」が使われていた「インド中華」というジャンルに目を付けたのが、キッコーマンだ。20年9月に子会社を設立し、翌年から本格的に営業を開始した。都市部を中心に店舗が増えていたインド中華料理店などで商品をアピールしている。
ただ、インド事業を担当する田島圭さん(44)は、「現地のシェフたちに『日本のしょうゆってすしに使うものでしょう?』と、何度も言われた」という。誤解を解こうと、唐辛子やガーリックを漬け込んだピリ辛しょうゆを持参し、味見をしてもらった。
インド中華の歴史をたどると、中華系の人々が数百年前にインド東部コルカタに移住して中華街を設け、そこからインド風にアレンジされて広まっていったようだ。ピリ辛の中華風焼きそばは想像できるが、スパイスと絡めたカリフラワーを揚げた「ゴビ・マンチュリアン」など、独自の発展を遂げたインドならではのメニューも少なくない。
大豆や小麦、塩といった原料しか使わないしょうゆは、ベジタリアンでも問題はない。販路を広げるため、ベジタリアン向けのオイスターソースやインド中華で好まれるダークソイソースも展開する。
販売実績を着実に積み上げながら、数十年先の将来も見据える。国連の推計では、インドの人口は60年代前半まで増え、17億人近くに達すると予測されている。さらに、世界各国に移住するインド系住民も3500万人以上に上る。
田島さんはこう指摘する。「人口が増えることは、胃袋も増えるということ。世界中に出て行くインドの人たちがキッコーマンを知っていることが、次の市場開拓につながる可能性もある」
文/石原孝 伊藤弘毅