カギを握るベジタリアンメニュー

進出から5年たった24年秋時点で、北部にあるグルガオンと首都ニューデリーに店舗を展開。当初、6対4で日本人が多かった客層は今や8割以上がインド人に。カレーうどんやラーメンなどの麺類も健闘している。スパイスを利かせたナポリタンを食べていた会社員のビドゥ・ヤンシュさん(24)は、「同僚に評判を聞いて初めて来た。ピリ辛でおいしいね」と笑った。

カレーのルーは、海外用に開発した動物由来の原料を使わないものを日本から輸入する。インドでは、肉や魚を食べないベジタリアンが5億人以上に上るとの推計があり、ベジタリアンメニューの注文が全体の約4割を占めている。

バナナの葉の上にのったインドの伝統的な食事
バナナの葉の上にのったインドの伝統的な食事

意外なインド人の好みも見えてきた。エリアマネジャーのマーシュ・マックスウェルさん(39)らによると、お客さんが選ぶカレーの辛さのレベルは、オリジナル味か「1辛」が多く、辛くしても「3辛」までがほとんどだという。

23年7月にインドに赴任した同社の長谷川克彦さんは、「インド北部にはバターチキンなど、そこまで辛くないカレーも多い。スパイスの強い食事を好む南部に行けば、もう少し辛い味が選ばれると思う」と語った。

日本の8.7倍もの面積があるインドは、地域によって食文化や言語が異なる。飲酒が禁止されている州もあれば、日本酒やウイスキーを愛飲する人もいる。一言でくくりにくい多様性が、インドでビジネスをする難しさであり、商機にもなりうる。

牛肉を提供できない米国のファストフードチェーンなども、現地の住民が好きな風味を採り入れながら10年、20年とかけて定着していったと言われる。

長谷川さんは「そこまで年月はかけられない」としたうえで続けた。「日本食のチェーン店がなかなか進出できていないこの国で、何とかして結果を出したい」

さらに詳しく現地の状況を知るため、インドの食事情や日本企業の進出状況に詳しいジャーナリストのビル・サンビ氏(68)にも会いに行った。

日本の飲食企業はインドで成功するのか? 彼にそんな質問をすると、「純粋な日本食だと、インドでの(ビジネス)チャンスは限られるだろう。日本食は食材そのものの食感や、繊細な風味まで大事にする。一方、我々はスパイスを愛し、刺激や主張が強い味を好む。食材の質が良くなくても、豊富にあるスパイスで覆い隠すこともできるんだ」と指摘した。

確かに、街の飲食店で食事をすると、肉がパサパサしていたり、野菜が傷んでいたりすることはある。ただ、最近は都市部の若者を中心に、すしや天ぷら、ウイスキーを好む人も増えるなど、好みの変化も少しずつ起きていると言う。

「米国でカリフォルニアロールといった巻きずしが受け入れられたように、インド流に適応させた味や提供方法を考えていく必要がある」