孫正義への手紙

坂口 そうそう、もう本当に。なんならこれ「100億もらったら、自殺者を0にできるんじゃないか」とまで思ってて。だから僕は1回、孫正義さんに手紙を書いたんです。「俺に100億渡したら、自殺者を0にできるかもしれませんよ?」って。いま、国の予算が毎年600億円あって、何万人が死んでるわけです。だけど俺のシステムだと、俺と同じような志を持ってる人を350人ぐらい集めれば、日本全国からの死にたい電話に全部ワンコールで出ることができますから。

糸井 だけどそれ、坂口恭平にはできるけど「俺もやる」って集まった350人にそれができるかどうかは、わからないですよね。

糸井重里さん
糸井重里さん

坂口 いや、実はそれ、実験してみたんですよ。つまり、僕が助けた女性でひとり、「私の携帯番号をさらしていいです」って言われたの。「女だから危険だぞ」って言ったら、「いや、恭平さんが助けてくれたので、私もいいですよ」って。

だから「もし違うぞって言われたら、俺が一緒に行きますよ」みたいな感じで公開したんです。そしたらいろんな人から、「もう、坂口さんよりぜんぜんよくて」って。

俺が落ち込むぐらい、その子のほうが評判がよくて、「すごい嬉しい。楽になりました」って。「恭平さん、厳しくて……」って(笑)。僕はすぐ「お前、そんなんで死ぬなよ」とか言っちゃうから。「すげー、俺より上がいた」と思って。「いや、もう、ぜんぜん恭平さんじゃなくていいです。恭平さんは頭で、あとは普通の方がいいです」とかで、僕はもう「え?いままでみんなから『お前じゃないとできない』って言われてたんだよ?」と思って。

糸井 僕もそう思ってた(笑)。

坂口 「それが俺の自慢なんだよ?俺の特権なんだよ?」とか思ってたのに、「いや、恭平さんは頭にいればいいです」「なんなら、ソフトバンクの人に、そこから350人に振り分けられるシステムさえ作ってもらえればそれで」とかって。僕じゃなくてよかったらしいです。で、その子はいまもやってくれてます。

糸井 あ、いまでも。

坂口 やってる。そして、「恭平さん、私にこんな幸せな仕事を与えてくれてありがとうございました」って言ってます。しかも、俺はその子に「金が無いときは言って。10万円振り込むから」とだけ言ってるんです。だけど、いま2年ぐらい経って、まだ2回しか振り込んでないんです。

糸井 それはもともと、自分で死ぬかもしれなかった子だよね。

坂口 そう、お母さんが目の前で自殺した人。「来なさい」って言われて、ベランダからお母さんが飛び降りちゃった。そんなのもう、おかしくなるから。みんな本当に乖離状態になるんですよ。その人も電話の向こうで「お母さんのところへ行く」と言っていて。

俺もね、そこまでなったら、お母さんをやるしかないですよ。「(高い声を出して)私はあなたの横にいつもいるのに、どこに行こうとしてる……!」って。とにかく、オフボイスで。俺の地声じゃダメなので。

糸井 器用だから。

坂口 そう、器用だから。「(高い声で)あなた、私はいつも透明だけど、あなたの横、なんなら冷蔵庫の前にいるのにどこに行くの……!」って。そう言ったら、止まったんですよ。「すぐ家に帰ります」って。ホテルから乖離状態で電話してきてたんだけど。

糸井 ものすごいブリコラージュだね。