阿部サダヲがやっぱり最凶のヤバい人?
おそらく、この家族の中でなんとも居心地悪そうにしている幸太郎は、視聴者と同じ目線だろう。きっと幸太郎と同じ感情でドラマを見ていけば間違いない。
特に第1話で衝撃的だったシーンは、ネルラがクロワッサンをバリバリかぶりつき、口の周りにパンくずをつけ、ボロボロこぼしていたシーン。あれはもはやホラーだ。「不思議ちゃん」なんて言葉ではとても済まされない。だがこれも、松たか子の演技が絶妙で、人によっては“かわいらしいシーン”または“微笑ましいシーン”に見えていたようで、本当にこのドラマの怖さが際立つ。
そして、それをさほど驚かず受け止めている幸太郎。この、 “異物を受け入れる男”の存在もまた、じわじわ怖くなってくる。視聴者の不安を代弁してくれるはずの“普通の人”が、実は一番信用できない。そんな気がしてくる。メタ目線で見れば、幸太郎を阿部サダヲが演じている時点で、普通の人とは思えない。絶対に、何かあるはずだ……。
このドラマの“気持ち悪さ”は偶然ではないと感じる。近年、漫画やWeb小説では「読んでいて不快なのに目が離せない」系の作品が大流行している。たとえば毒親、歪んだ家族、共依存――いずれもSNSや口コミで盛り上がる要素だ。
だが一方で、地上波ドラマではその“嫌な感情”を正面から描くのは難しかった。わかりやすく単純なエンタメが求められている。だからこそ『しあわせな結婚』が、その領域に踏み込んでくれたことに、ある種の地上波ドラマの可能性を感じた。「こういうドラマが、ちゃんとゴールデンで放送される時代になったんだ」と。
この気持ち悪さがなんなのか、その正体を知るためにも、このドラマから目が離せない。
取材・文/ライター神山