吉野家はラーメンでの巻き返しを図る

さらに、これまでサイゼリヤが値上げをせずにインフレ下で我慢を続けたことは別の意味も持つ。成長に必要なカードを残すことができたのだ。多くの企業はすでに値上げというカードを切っている。

2019年に売上が3000億円を下回っていたマクドナルドは、値上げによって瞬く間に4000億円を突破した。しかし、今の日本人の所得水準を考えれば、値上げ余地はもうほとんど残されていない。実際、今期は1%台の増収を計画しており、6%の増収だった前期からトーンダウンしている。

世界最多の店舗数を誇る外食チェーン「マクドナルド」
世界最多の店舗数を誇る外食チェーン「マクドナルド」
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かつて280円で提供されていた吉野家の牛丼並盛は今や498円で、500円に限りなく近づいた。吉野家は今期の客数がすべての月で前年を下回っている。

牛丼に対して消費者は特に価格に敏感で、値上げ耐性がない。2024年12月にラーメン店「キラメキノトリ」を買収しているが、やはり多ブランド化の道を辿ろうとしているようだ。

飲食店の売上は客数と客単価で構成されている。企業理念や経営者の意向にもよるが、理論的にはサイゼリヤは価格を引き上げる余力が十分に残されており、これは成長の潜在性があるのと同義だ。

値上げをしないという単純な戦略を貫いたサイゼリヤだが、ここにきてその成果は大きなものとなった。飲食企業は足元で大きな分かれ道を歩んでおり、サイゼリヤだけがライバルとは違う道を進み始めている。

取材・文/不破聡 写真/shutterstock