沖縄では、テケテケと戦争怪談とが接続

沖縄は苛烈な地上戦が繰り広げられた経緯から、戦争にまつわる怪談が多い地域だ。当然ながら、子どもたちの語る怪談においても戦争の影響が深く見られる。

また沖縄は、「テケテケ」発祥の地ではないかとも目されている。現在確認されている限り、テケテケについて最も早期の報告事例が、1980年頃の沖縄だからである。

そんな沖縄では、学校の怪談の大スターであるテケテケと戦争怪談とが接続するのだ。

米軍の戦闘艦などが沖縄に着岸する様子(写真/Shutterstock)
米軍の戦闘艦などが沖縄に着岸する様子(写真/Shutterstock)

テケテケとは、腰から下が欠損している、上半身だけの姿が特徴の怪異。しばしば肘を地面に叩きつけながら、猛スピードで追いかけてくると語られる。学校の怪談としてメジャーな存在となっているが、元々の出没エリアは学校ではなく、道路で出くわすパターンが主だったとも言われる。

先述通り沖縄は非常に早い時期からテケテケが語られている。全国的な知名度が高まるよりもずっと前から、学校の怪談として広まっていたようだ。

沖縄の怪談師ヨシロー氏(1980年生)によれば、沖縄市の彼の出身校では、入学以前からテケテケ怪談が継承されていたとのこと。やはり上半身のみの幽霊だが、呼び名は「テクテク」だったそうだ。

この発音の違いについては、沖縄でよく見られる傾向である。テケテケ名称が全国的に固定されるまで、県内ではテケテケとテクテクの呼び名が混在していた。

沖縄ならではの相違は他にもある。テケテケが上半身だけとなった由来は、鉄道事故に遭って体を切断されたからというのが典型例だ。しかしヨシロー氏によれば、出身校の教師が次のような由来を語っていたという。

——沖縄戦終了直後のこと。
アメリカによる占領統治が始まり、沖縄一帯に米軍が展開していった。まだあちこちに戦死者の遺体が転がっており、米兵たちはその回収作業を行っていた。激しく損壊した遺体を、次々にトラックの荷台へと投げ込んでいくのだ。

中には、上半身と下半身が切断された遺体まであった。その下半身を荷台に積んだ直後、次の地点へ向かおうとトラックが走り出してしまう。作業中の兵士は、慌てながらそれを止めた。地面に残された上半身を指さし、運転手に向かってこう叫んだのである。

「Take IT!  Take IT!(持っていけ!)」

その場面を見ていた地元民が、上半身のみとなった人間を英語で「テケテケ」「テクテク」と呼ぶのだと勘違いした。それがテケテケもしくはテクテクという名の由来になったのだという。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

80年代に、沖縄市周辺の小学校に広まっていたエピソードのようだ。もちろん事実ではなく、テケテケ・テクテクの音から逆行して生み出された由来譚だろう。

しかしテケテケ怪談が最初期に広まったのが沖縄であるのならば、こうした戦争怪談として語られていた時期が確かにあったのではないだろうか。

全国的に見渡せば、テケテケが上半身のみとなった理由は鉄道事故によるものと説明されることが多い。列車に轢かれるほどの力が加わらなければ、下半身切断に至る経緯としてリアリティがないからだろう。

また切断された傷口が寒さのため一瞬で凍りつき、被害者がしばらく生きていたという下半身切断伝説も、テケテケの来歴として語られがちだ。そのためか、北海道は沖縄に次いでテケテケ怪談が早期に広まった地域でもある。

冬の北海道(写真/Shutterstock)
冬の北海道(写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

しかし沖縄には鉄道がない。そうなると地上戦を経験し、米軍統治下にあったという歴史が、テケテケの由来として説得力を持ってくるのだ。

これはテケテケに限らずあらゆる怪談に言えることだが、なぜその怪異が人を襲うのかという理由を語るのならば、激しい怨念を抱くほど悲惨な死を迎えた背景に触れなくてはならない。

例えば傷口が凍りつき激痛で苦しみながら死んだ、というのは一つの理由となる。そして「戦争」もまた、悲惨な死の原因としてよく持ち出されるモチーフであった。

文/吉田悠軌

よみがえる「学校の怪談」
吉田 悠軌
よみがえる「学校の怪談」
2025年7月4日発売
1,540円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-788121-9

恐怖が生まれ増殖する場所は、いつも「学校」だった――。
繰り返しながら進化する「学校の怪談」をめぐる論考集。

90年代にシリーズの刊行が始まり、一躍ベストセラーとなった『学校の怪談』。
コミカライズやアニメ化、映画化を経て、無数の学校の怪談が社会へと広がっていった。
ブームから30年、その血脈は日本のホラーシーンにどのように受け継がれているのか。
学校は、子どもたちは、今どのように語りの場を形成しているのか。
教育学、民俗学、漫画、文芸……あらゆる視点から「学校の怪談」を再照射する一冊。 

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon