富裕層の需要を堅実に取り込むという現在の方向性 

トー横広場の封鎖という想定外の不運があったとはいえ、「エンターテインメントを通して新たな観光拠点を創り上げていく」という、開業時から掲げられた富裕層から一般大衆まで幅広い消費者をすくい上げるという当初の目論見は外れている。

もっとも、ビル全体の収益性という観点で見れば、富裕層の需要を堅実に取り込むという現在の方向性が間違っているとは言えない。

一般市民の視界に入る場所で閑古鳥が鳴いているため、再開発が失敗したと思われていながらビジネスとして成功している再開発物件は意外と多い。東急が約16%の資本を持つ兄弟会社、東急不動産ホールディングスが手掛ける渋谷サクラステージがその代表例だ。

24年に開業し、渋谷駅直結という恵まれた立地にもかかわらず、飲食店が入っているフロアはガラガラで、あちこちに「テナント募集」の張り紙が貼られていることがSNSでは話題になった。

歌舞伎町も渋谷も、東急が外国人富裕層や大企業ばかり相手にする

そんなサクラステージだが、視線を上に向けると見えてくる世界は変わってくる。高層ビルの大部分を占めるオフィスエリアにはスクウェア・エニックスのような日本を代表する大企業からSansanといった新進気鋭のスタートアップが入居し、面積当たりの賃料は丸の内や大手町に匹敵する、日本有数のオフィスとなっている。

建物内にある外国人の長期滞在をサービスアパートメントの稼働も好調だ。近年、渋谷駅周辺の再開発でできたビルはどこも同様の傾向で、オフィスビルやホテルが収益を稼ぎ出している。

歌舞伎町も渋谷も、東急が外国人富裕層や大企業ばかり相手をするので、一般市民が楽しめる街ではなくなったと批判されがちだ。しかし、東急グループにとって、致し方のない話である。リモートワークの普及や沿線人口の高齢化により、主力事業の鉄道事業の輸送人員はコロナ禍前を下回る。

営業利益の大半を不動産やホテルなどで稼いでおり、こちらに伸びしろがある以上、「お得意様」であるインバウンドやオフィスに向いた街づくりを進めていかざるを得ない。

7月20日に投開票を迎える参議院選挙では「日本人ファースト」を掲げる参政党が人気を博するほか、外国人の不動産取得を抑制するための公約を各党が掲げるなど、インバウンドに対する風当たりは強い。

しかし、営利企業にとっては、文句ばかり言ってお金を落とさない日本人ではなく、外国人のほうを向くのは当たり前のことだ。東急グループが歌舞伎町や渋谷で進める消費の分断は、日本の未来を暗示しているのかもしれない。

取材・文/築地コンフィデンシャル