なぜ開発に失敗?「日本人が普段使いするには敷居は高い」
歌舞伎町タワーは20~38階の「HOTEL GROOVE SHINJUKU」と39~47階にある「BELLUSTAR TOKYO」という二つのホテルが同居する珍しい構成で、いずれもインバウンドを主要顧客としている。
近年、これだけの高層ビルを建設する場合、オフィスとホテルを組み合わせるのが一般的だが、歌舞伎町というエリアの特性を鑑みて、インバウンド向けのホテルに特化させたのだ。
高層階に立地するBELLUSTAR TOKYOは最高級のラグジュアリーホテルで、開業直後の平均客室単価は10万円前後とされる。さらに、全97室のうち5室は地上200メートルに立地するペントハウスで、「天空のプライベートヴィラ」という宣伝文句に相応しい、贅を尽くした広々とした空間が特徴だ。
1泊130万円からで、200万円を超える部屋もあるという。一流のシェフを呼んで料理をさせることも想定しており、超富裕層を相手に設計されていることがわかる。
一方、中層階のHOTEL GROOVE SHINJUKUはどうだろうか。こちらは「まるで自分の部屋のような快適な空間」を謳っているだけあり、シンプルなデザインだ。
20平方メートル台の部屋も多く、過度な高級感は抑えられている。もっとも、こちらも平均客室単価は3万円を超えているとされ、日本人が普段使いするには敷居は高い。
歌舞伎町タワーから見えてくる「消費の分断」
案の定、ホテル内で聞こえるのは英語や中国語ばかりで、日本語を耳にすることはほとんどない。低層階で歌舞伎町内のインバウンド需要を取り込むという戦略は成功しているとは言い難いが、あらかじめ予約して訪れる財力のある外国人観光客をしっかり押さえている。
いずれのホテルも海外の口コミサイトでは高く評価されており、集客は好調なようだ。東急グループは業界メディアの取材に対しBELLUSTAR TOKYOについて「今後は(平均客室単価)11〜15万円を目指していきたい」と強気の姿勢だ。
東急グループの高級路線はホテルだけにとどまらない。9階から10階にかけて設置された「109シネマズプレミアム新宿」は1席4500円の「CLASS A」と6500円の「CLASS S」という驚きの価格設定だが、6500円の席のほうが稼働率は高いという。
おかわり可能なポップコーンやソフトドリンク、プライベート感のあるシートや音響設備、映画鑑賞後のプレミアムラウンジの利用など、至れり尽くせりのサービスが評価されている形だ。
大衆向けに敷居を下げたフードコートやアミューズメント施設には閑古鳥が鳴く一方、富裕層向けのホテルや映画館は賑わっている――。歌舞伎町タワーから見えてくるのは、消費の分断だ。金を持っていない日本人からすると「失敗」だが、富裕層にとっては満足度が高い施設となっているのだ。