今一番の楽しみは…
そんな清隆さんが今、楽しみにしているのは昔から大好きだった大相撲中継をヘッドフォンで聴くことだ。白内障を患う前は野球や駅伝などのスポーツ観戦を楽しんでいたが、見えなくなった今は「パっと勝負が決まる相撲がいい」と語る。
最近の力士では照ノ富士、稀勢の里、歴代では白鵬が好きだといい、現在は大の里の活躍にも注目しているというが、一方でこんな不満も…。
「今は目が見えないしな、力士も名前しか分からん。音で聴いててもお客さんの『ワー』っていう歓声で、アナウンサーも何言ってるのか聴こえないしな。誰が勝ったのか負けたのか分からへんから、昔よりはうんっと興味が薄れちゃったな」
昔大好きだったという駅伝のことについて聞いてみると、
「マラソンも(どんな選手がいたか)忘れちゃったな~。瀬古(利彦)なんてのがいたな~」
一方、野球は巨人ファンだといい、好きな選手について尋ねてみると、
「巨人の長嶋や王はよかったな~。長嶋は少し前に文化勲章をもらってたな。王は国民栄誉賞第1号をもらってな。今じゃどうなってんのか分からないな」
と饒舌に当時を語っていた。長嶋茂雄さんが先月、89歳でご逝去されたことを伝えると、
「死んだのか! あ~そう…。王は元気なのか? そうかそうか」
と少し寂しそうな表情を浮かべていた。
清隆さんの111歳の誕生日当日は家族でケーキを囲んでお祝いしたといい、テレビでも大々的に「国内最高齢の男性」と報じられた。実際、ご近所の反応はどうだったのか。息子の重宏さんによると、
「『まさかこんな小さな集落から国内最高齢が出るなんて!』と、みんなびっくりしてましたよ。でも長年、農家をやっていたもんで、みんな『きよちゃ(清隆さんのあだ名)、よく働いてたもんね』って納得していた感じではありました」
改めて清隆さんに今後の目標ややりたいことはあるのか聞いてみると、
「別にないな…(笑)。まさかこんなに長く生きるとは思ってなかったからな~」
と笑った。次の誕生日も、その変わらぬ笑顔で迎えられる光景が容易に目に浮かんだ瞬間だった。
取材・文/木下未希