30代独身男がもの凄く気持ち悪がられていた

昔は、ほとんどの男性が20代後半までに結婚していたので(男性の生涯未婚率は1955年当時約1%、2015年では約28%[国勢調査])、たまに30代半ばで独身の男などがいると、「あの人、何かあったのかしら……」などといわれて、町中で噂になったりしていた。

近所の主婦同士が集まっての井戸端会議の際も恰好のネタとなっており、そこへ「噂をすれば影」でたまたま当人が通りかかったりすると、みなでニッコリと微笑んで会釈し、やり過ごしたあとで「ああ、ビックリした」などといいながらまた話を続けたりしていた。

会社でも話題になることが多く、昼食時など「○○さん、まだ独身なの知ってる?」「えっ、まさか!」といった会話もよく聞かれた。30代半ばでもこのありさまだっただけに、40代~50代で独身だったりすると、もはやそれはほとんど「触れてはいけない話」扱いであった。

そうした人物については、他の部署から「どんなヤツだ」とばかりに、わざわざみにいく話もあって、やがては段々と本人もどこか「暗い過去を持つ男」のような雰囲気を漂わせ始めたりしていた。

晩婚化が進んだ現在では独身も多くなったが…
晩婚化が進んだ現在では独身も多くなったが…
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ちなみに、筆者の父親は大手都市銀行に勤務していたが、「昭和の頃には、30歳までに結婚しない男は支店長にはなれないという不文律があった」とも話していた。当時は、いいトシをして家庭も築けない人間は社会的信用もないし、またどこかおかしい人間ともみられていたのである。そのため、行内では29歳になると駆け込みで見合い結婚するケースが続出していたという。

ほとんどの人が結婚していたのは、こうした同調圧力の結果でもあるし、逆にいえば大半の人は適当に妥協して結婚していたのだともいえるのだろう。自由な時代にはなっているが、近年では結婚難が叫ばれており、未婚化・晩婚化・少子化も極端なまでに進んでいる。当時の状況が良かったのか悪かったのか、いい切るのは難しそうである。

文/葛城明彦

『不適切な昭和』(中央公論新社)
葛城明彦
『不適切な昭和』(中央公論新社)
2025年5月9日
990円(税込)
232ページ
ISBN: 978-4121508416

いまとなってはありえない!
これが令和の日本とは同じ国とは信じられない事実の連続。なつかしくもおかしい昭和の時代の景色を今によみがえらせる。コンプラ意識ゼロの怒濤の常識、非常識。


第1章 社会――暗くて汚かった街
第2章 学校――カオスな、もうひとつの小社会
第3章 家庭と職場――のん気なようで意外と地獄
第4章 交通――ルール無用の世界
第5章 女性――差別もセクハラも放ったらかしだった頃
第6章 メディアと芸能界――規制ユルユル、何でもやり放題

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