訪日外客数の政府目標は6000万人だが…
国民に恩恵がないどころか、逆に日本の風情まですり減ってしまうインバウンド政策。テレビは「外国人に人気!」と繰り返すが、喜んでいられる話ではないのだ。
前出の経済部記者が言う。
「そもそも観光業の振興は、他にめぼしい産業がなく失業率が高い国や地域が、雇用を生み出すために取る政策です。しかも、観光業は社会的な生産性向上にはあまり寄与しないとも言われています。
例えば工業やIT、社会インフラの発展は、国民に直接の経済的恩恵がなくても、技術や開発が進展することによって便利な社会を享受できるという恩恵があります。
しかし、観光産業が発展し、飲食店やホテルができても、サービスを利用する人以外には恩恵がありません。そのうえ、労働集約型産業で多くの人材を必要とし、人手不足社会では他業種に悪影響をもたらし、物価上昇にも繋がります」
残念ながら今のインバウンド政策は、日本人の需要減は想定されていなかった。物価高により、購買力が劣る日本人は排除され、円安で購買力にまさる外国人に顧客対象を置き換え、同時に街の性質や風情も変わってしまう政策ともいえる。
ネット上では、インバウンドに批判的な論調に対し「排外主義」批判が起こるが、実際には「排内(日)主義」的な政策と言えなくもない。
なお、民間調査によれば、今の訪日旅行の決定要因の6割は円安だという。昨年来日した3687万人の訪日客の半数以上は日本が安いから来ている客ということになる。
30年の政府目標は昨年の1.5倍以上の6000万人であり、これは、逆に言えば国民がさらに円安で苦しみ、訪日客の集中によってレジャー物価がさらに高騰するような状況を政府・自民党が目標設定しているとも言えなくもない。
国民のための政策と考えた場合、インバウンド政策にはもともと大きな矛盾があるのだ。
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取材・文/九戸山昌信