北海道・ニセコ地区などでは、介護人材が観光業に流出…
一方で、期待する経済効果については、訪日客8.1兆円の消費額に加え、その経済波及効果を考えても、GDPに占める割合はせいぜい2~3%。日本経済全体に与える効果は元から限定的で、とても日本経済をけん引する産業にはなりえないだろう。
観光産業の雇用者自体は増えたが、その内訳は外国人材が多く、彼らの賃金は低いため、業界全体として賃金が上がりにくい状態に変わりはない。
しかも、国内は失業率がすでに最低水準の人手不足状態だ。雇用を増やしたというより、人手不足の中、他業種から奪ってきた、というのが実態に近いともいえる。
インバウンド依存度が高い北海道・ニセコ地区などでは、介護人材が観光業に流出して介護事業所の閉鎖が報じられるなど、人材の奪い合いは地域生活にも悪影響を与えかねない。
それでも、最終的に地域に住む人が経済的に潤えば、政策目標は果たせているとも言えるが、残念ながらそんな形跡は一切ない。
例えば、人口あたりの訪日客宿泊数が大都市ではトップの京都市住民の懐具合はどうか。所得を反映する個人市民税収では、当初予算ベースで18年の1093億円から24年には1126億円と、たった3%程度しか増えていない。
市民税が累進の所得税と連動していることを考えると、全国平均と同様に物価上昇を反映した実質ベースの所得はほぼ上がっていない情勢だ。
その一方でインバウンド政策は国民に対する負担が大きすぎるのだ。
特に深刻なのが局所的なレジャー物価の高騰。宿泊施設や、一部飲食店など、有限な消費財に需要が集中することで、需給バランスを崩し、局所的に“狂乱物価”となってしまう。
日本人が行きたいところは外国人の行きたいところとも重複するため、円安で購買力にまさる訪日外国人に買い負けて、排除されてしまう。
全国紙経済部記者が言う。
「もともと日本人がそこまで行かなかった地域ならまだしも、日本人が行きたい京都や東京のホテルまで高騰しています。円安で海外旅行はおろか、インバウンド政策の影響で日本人は自国の旅行ですら行きにくい世の中になってしまいました。
京都では、日本人の延べ宿泊数はすでにホテル代が高騰していた19年同月比からさらに19%も下がっていて(京都市観光協会・24年7月データ月報)、現在の宿泊者数における日本人比率は半分以下になっています。
日本人観光客が減ったことで、外国人が関心を示さないような店は逆に閉店に追い込まれています。かつて『京の台所』と言われた錦市場は1本数千円の“インバウンド牛串”を並べる店ばかりになり、地元住民はもちろん、日本人観光客もほぼ寄り付かなくなってしまいました。
その結果、長年、軒を連ねた惣菜店や漬物店など多くの伝統的な店が閉店を余儀なくされたのです。京都を知ってもらうどころか、京都の伝統が現在進行形で失われていっているのです」