ストーンズが繋いだ細野晴臣と忌野清志郎

話を戻そう。1990年のストーンズ来日時、代官山にある焼肉レストラン「サージェントペッパーズ」という名の店で、細野とビルらは会食することになった。

かつて細野のパーソナル・マネージャーで、YMOも手がけてきた日笠雅水が、そこに同席したときのことをSNSでこう明かしていた。

「サージェントペッパーズ」は細野さんが店名を慮ることなく予約、当日現場で「よりによってこんな名前のお店に!ヤバイ!」って言ってるところにビルがやって来て、ニヒルな感じの笑みを浮かべ、「君たちがロンドンに来た時には僕のスティッキーフィンガーズって店に招待するよ」と言ったのでありました。

この夕食のお返しに、細野はビルからローリング・ストーンズ来日公演に招待されて、VIPとして開演前の楽屋を訪ねることになった。

しかし、ローリング・ストーンズの音楽に細野がそんなに詳しくないので、誰かに同行してもらいたいという話になって、日笠が強く推薦したのが忌野清志郎だった。

『ロックン・ロール~Beat, Groove and Alternate~』(2024年3月6日、Universal Music)
『ロックン・ロール~Beat, Groove and Alternate~』(2024年3月6日、Universal Music)

この時点での、二人は意外にもほとんど面識がなかったという。

日笠は忌野清志郎とすでに親しい間柄だったし、日頃から両者の信頼を得ていたので、3人で一緒にビルの楽屋を訪ねることになった。

ライターの岡本貴之とフォトグラファーのゆうばひかりによって企画された単行本「I LIKE YOU 忌野清志郎」(河出書房新社)のなかで、日笠はこのように述べていた。

実は私は、清志郎さんと細野さんには、いつか二人で音楽をやってほしいとひそかに考えていたので、これは良いきっかけになるな、と。結局、私も同行することになって、3人で東京ドームに行きました。清志郎さんと細野さんが話をしたのはその時が初めてです。

なお、その時の楽屋での模様については2005年8月15日にオンエアされたNHKラジオの特別番組『ダブルDJショー 2005』で、二人が詳細を語っていた。

それによれば、終演後に3人で六本木で会食した時に話題に出たのが、三宅伸治とともに、坂本冬美をヴォーカルに迎えて始めようとしていたSMIの話だった。

東芝EMIの創立30周年記念イベント「ロックの生まれた日」で競演することになった3人のユニットは、名前の頭文字を取ってSMI(坂本+三宅+忌野)と名付けられていた。

1987年3月4日にデビューした坂本冬美。彼女の代表曲として今なお愛されている1曲『夜桜お七』。写真は、『夜桜お七 [完全生産限定盤]』(2022年2月23日発売、Universal Music)のジャケット写真
1987年3月4日にデビューした坂本冬美。彼女の代表曲として今なお愛されている1曲『夜桜お七』。写真は、『夜桜お七 [完全生産限定盤]』(2022年2月23日発売、Universal Music)のジャケット写真

これに惹かれた細野は、リハーサルのスタジオにも顔を出して、アイデアを出したあたりから入り込んでいったという。

「ロックの生まれた日」は、日比谷野外音楽堂と大阪城野外音楽堂で開催されたが、SMIは『パープル・ヘイズ音頭』やビートルズのカヴァー『AND I LOVE HER』、モンキーズのカヴァー『DAY DREAM BELIEVER』、歌謡曲の『高校3年生』など7曲を披露した。

この試みが好評だったことから、音源のレコーディングを作品化する企画が持ち上がると、忌野清志郎は細野をプロデューサー兼メンバーとして迎え入れる。

こうして1991年になってから、あらためてユニット「HIS」が誕生するのであった。

細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美によるユニット、HISによるアルバム
『日本の人 [SHM-CD]』(2016年12月14日発売、Universal Music)。オリジナルの発売は1991年7月19日
細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美によるユニット、HISによるアルバム
『日本の人 [SHM-CD]』(2016年12月14日発売、Universal Music)。オリジナルの発売は1991年7月19日
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文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/『日本の人 [SHM-CD]』(2016年12月14日発売、Universal Music)