排他主義的なトランプと日本企業
不法移民の排除、性別は2つだけ、WHO脱退…。剛腕で知られるトランプ大統領が帰ってきた。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、1月20日に就任するや否や、ジョー・バイデン率いる民主党政権の政策をひっくり返そうとする勢いだ。
「カナダを51番目の州に」と発言したり、反りが合わない国に対して関税25%をちらつかせるなど、波紋を広げている。
そんな先行きが不透明なトランプ政権下で、日本企業はどのように対応すべきなのか。 国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏に話を聞いた(以下、「」内は前嶋氏のコメント)。
日系企業の現地法人は大歓迎
日系企業 はアメリカが「自国第一」の保護主義的な政策を進めると考え、ヨーロッパの企業以上に積極的にアメリカでの現地法人化を進めてきた。
「アメリカに工場を建て、現地で人を雇用し、『メイド・イン・アメリカ』の製品を生産し、成長すること自体には問題ありません。これはバイデン政権でも歓迎されており、基本的にトランプ政権でも変わることはないでしょう」
そのため、仮にトランプ政権によって関税が引き上げられたとしても、アメリカ国内で製造を行なう限り、それほど大きな打撃にはならない。しかし、カナダやメキシコに進出している企業にとっては今後、懸念が生じる。
「1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)成立以降、日本企業はカナダとメキシコで製造した製品を関税なしでアメリカに輸出することができました。
ただ、トランプ大統領は今月1日、この2カ国からの輸入品に25%の関税を課す大統領令に署名したため、事業環境が大きく変わる可能性もあります」
政権が変わるたびに、企業を取り巻く状況も大きく変化する。こうした中で投資先を誤ったとされるのが日本製鉄だ。
「同社は最悪のタイミングで、もっとも不適切な場所に進出しようとしました。
これまで日本企業の進出先といえば、南部のテネシー州、テキサス州、フロリダ州、ノースカロライナ州などが定石。
これらの州は企業にとって魅力的な地域で、例えばテキサス州には州の法人税がありません」
さらに、日本では問題視されるかもしれないが、アメリカ南部の州には労働組合がほとんど存在しない。
「日本人にとって労組とは『業務の改善を訴える組織』ですが、アメリカの労組は日本のそれ以上に戦う存在であり、もはや企業の敵とも言えます。さらに、アメリカの労組は民主党を支持する利益団体です。
そこで、共和党は労組を弱体化させるために、多くの対策を講じてきました」
象徴的なものが「労働権法」である。
「これは『労組に入らない権利を労働者に保障する』というもので、企業に入社した際に社員の労組への加入を義務付けない内容になっています。
これにより南部では労組が組織拡大できず、力を持たない状況が続いています」