北米主力のCR-V人気は依然として強い

一方で、アメリカのEV市場は伸びが鈍化している。

2024年の販売台数は前年比7%増の130万1411台だった。販売台数は3年連続で増加したものの、1.5倍に伸びた2023年の勢いは失われている。アメリカでは、郊外の長距離移動を伴う自動車需要が強い。そのため、ハイブリッド車の人気が高いのだ。

政権復帰したトランプ政権もEV促進策を撤回している。トランプ大統領は化石燃料を「掘って、掘って、掘りまくれ」と呼びかけたことで有名だが、石油や天然ガスなど化石燃料の増産によってエネルギー価格を下げ、インフレ抑制と雇用を促進する狙いがある。ガソリンが市場に出回ることで価格が下がり、EV市場のさらなる停滞を招く可能性もある。

しかし、ハイブリッドはホンダが得意とする領域だ。CR-Vは2024年にアメリカで売れたハイブリッド車の第3位に入っている。

中期的にハイブリッド車の人気が集まったとしても、主力車種でカバーができる。しかし、長期的にEV化へとシフトするのは間違いなく、その間にホンダがEVのラインナップに幅を持たせることができれば、シェアを高めることになるだろう。カナダEV工場の稼働は2028年だ。

カナダの関税懸念はあるが、大統領の任期は4年。2029年は状況が変化している可能性もある。

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ホンダと日産が経営統合する違和感…… 

ホンダの懸念材料が、日産との経営統合案だ。確かに日産はEVにおける先行技術を持っているものの、この2社には決して相容れない要素がある。企業風土だ。

ホンダは自転車販売から始まったベンチャースピリット溢れる会社だ。現在はその精神がやや薄れている兆候もあるが、自由闊達に議論できる風通しのよさがある。一方、日産は典型的な官僚型の組織だ。経営再建に乗り出したカルロス・ゴーン氏が社内で強い支配力を持つに至り、人事権も掌握されたことで、もの言えぬ企業風土になったと言われている。

日産は2024年に「下請けいじめ」問題で、公正取引委員会から下請法違反で再発防止勧告を受けている。しかし、経営陣は知らなかったとの説明に終始した。こうした風土が醸成されていることそのものが問題なのだ。

M&Aは実業や資産、業績、キャッシュフローへの影響が取り沙汰されるが、大切なのは同じ方向を向いて走れるかどうかだ。M&Aがよく結婚にたとえられる通り、うまくいくかどうかは性格や価値観こそが重要なのだ。

EVを強化するという目的があるにしても、経営統合によるホンダのメリットは少ないように見える。

取材・文/不破聡 写真/shutterstock