中国の国策として販売台数の底上げがノルマのBYD
現在、低価格EVの王者といえば、中国のBYDだろう。しかし、今後アメリカ市場でシェアを高める可能性は低い。高い関税が課されるからだ。
バイデン政権下の2024年9月、米政府は中国製EVに対して従来の4倍となる100%の関税を課すことを決めた。EV用のリチウムイオン電池の関税も従来の7.5%から25%に引き上げられている。さらにバッテリー生産に必要な天然黒鉛・永久磁石は2026年1月から25%に引き上げられる。
アメリカ政府は、中国のEVだけでなく、関連する部品の関税率も高めることでアメリカ国内での価格競争力を徹底的に削ぎ落し、中国製品が流入することを防ごうとしているのだ。
トランプ政権では、2月1日からカナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税を課すと発表した。こうした政策も第三国を経由した中国からのEV輸入への牽制とも見ることができる。
通商ルールにおいては、生産した国が原産地であり、その会社の資本がどの国のものかは一切関係がない。カナダやメキシコで生産されたものは、その国のものとしてアメリカに輸入される。(昨年、BYDはカナダとメキシコに工場を新設するとの報道があったので、関税はそうした動きを封じる意味合いもあるだろう)
さらに中国製EVには生産過剰感が漂っている。日本貿易振興機構(ジェトロ)は中国のEV生産稼働率が2023年に57.5%になったと報告がした(「中国、2023年の自動車販売台数は初の3,000万台超えも、内需に弱さ」)。2018年までは70~80%で推移していたので、稼働率が低下傾向にあることがわかる。
中国政府は産業界の研究開発費に必要な補助金や、税還付による支援を続けている。2023年の企業への税還付額は10年前の5倍。2023年は上場企業の99%が補助金を受け取っており、総額は5兆円を超える。BYDは直近5年間だけで、780億円近い税還付を受けている。
BYDは2024年の新車販売台数がホンダを上回ったが、いわば国策としてその成長を後押しされているのであり、とにかく価格を下げて販売数を増やさなければならないという事情がある。
各国が中国のEVに高い関税をかけて保護主義に動くのも、こうした背景があるのだ。