1.7兆円のEV工場新設で年間生産台数は24万台に
1月30日の「2024年の世界販売実績」の発表に先んじて、ホンダは2026年に、3万ドル(約470万円)以下の低価格EVを北米で販売すると報じられている。
すでに2024年3月に北米向けに初の新型EV「プロローグ」を販売価格4万7400ドル(約740万円)で発売しており、11月に累計販売台数が早くも2万5000台を突破するヒットモデルとなっていた。今回発表のあった低価格EVは約470万円で、停滞するアメリカのEV市場を切り拓く可能性もある。
2024年4月には、カナダ東部のオンタリオ州にEVとEV向け電池工場を建設すると発表していた。これは1.7兆円という過去最大の巨額投資であり、ホンダのEV開発・生産が加速することを予見させるものだった。
2028年より稼働開始予定の同工場の年間最大生産能力は24万台。ホンダの2024年におけるアメリカのEV販売台数は3.1万台なので、その8倍規模の大きさの巨大工場に見合った生産能力を活かす車種の開発が必要だった。
さらに2024年5月に電動化に向けた取り組みの方向性を打ち出す「2024 ビジネスアップデート」を発表しており、その中でEV専用工場による生産技術と工場の進化によって、生産コストを35%引き下げる計画を掲げていた。
現在、販売しているプロローグの価格は4万7400ドルだが、単純に35%を割り引くと3万ドル。工場の新設計画やホンダが掲げていたKPIと照らし合わせると、低価格EVは現実のものとなりそうだ。
この3万ドルという価格設定も絶妙なものだ。
アメリカで最も売れているEVはテスラの「モデルY」で、価格は4万2990ドル(約670万円)。2023年にアメリカのベストバイ・アワードを受賞した、韓国ヒョンデ(現代自動車)の「アイオニック5」が4万1450ドル(約640万円)だ。
2024年のアメリカにおける新車の平均価格は4万8205ドル(約750万円)。プロローグもこれに並ぶものであり、各社EVモデルの価格は市場価格と歩調を合わせているようだ。しかし、新車の平均価格は5年前と比べて2割増加している。急速なインフレが進行して価格がつり上がっているのだ。
自動車市場調査会社エドマンズ・ドット・コムにより、アメリカの消費者は新車購入費用として3万5000ドル(約540万円)以下を考えていることが明らかになっている。
実際、米メディア『クリーンテクニカ』は、日産「リーフ」の2024年の販売台数が前年比57%増、「アリア」が47%増になったと報じている。リーフの販売価格は2万7400ドル(約420万円)、アリアが3万9590ドル(約620万円)だ。
アメリカの消費者の間にはインフレ疲れが見られており、低価格商品への消費意欲が強まっている。ホンダはプロローグでEVの売れ筋と肩を並べるモデルを市場投入したが、低価格EVで別の市場へとリーチすることができるというわけだ。