「社内で一番、貧乏な課長と言われています」

一方、40代の小崎さんは、都内の大手企業で課長職として働いており、年収は1200万円以上。パートの妻と小中学生の娘3人を持つ一家の大黒柱だ。現在の生活ぶりを聞いてみると、返ってきたのは意外な言葉だった。

「年収や役職も含め、同じような立場の人が社内には約50人いるんですけど、『社内で一番、貧乏な課長』と言われています…。

長女が私立の中学受験を終えたと思ったら、来春は次女が中学受験を控えています。塾代や学費もかさんで、三女も私立中学に行かせてあげたいけど、ちょっと厳しいかな」(小崎さん、以下同)

“社内一、貧乏な課長”という、あまりにも不名誉な呼び名だが、謙遜かと思いつつも、その内情を聞いてみると、

「義理の両親も遠方に住んでいますし、子ども3人となるとさすがに共働きは無理で、三女が小学校に上がるまでは妻は完全に専業主婦でした。今はパートで働いてもらっていますが、我が家の贅沢といったら多くても年2回、妻の実家の福岡に家族みんなで帰省するぐらいです。大人2人と子ども3人の往復交通費だけで20万近くかかる。ディズニーランドだって年1回、家族で行けたらいいほうですよ。

物価も高騰しているし、税金で引っ張られるうえ、子育て支援策からも除外される。光熱費も上がっているから、我が家では自宅の湯舟の入れ替えは2日に1回と決められてるんです。だから個人の贅沢として、週に1回仕事終わりにスーパー銭湯に行ったりするんですけど、あの時間は本当に至福のひとときです。

だから正直、『103万円の壁』が話題になってますが、103万円が123万円にあがったところで、うちの家計には微々たるものです。『もっとドラスティックにやってもらいたいのに』と冷めた目で政治を見てます」

昨年、石破内閣が発足し、国会でも議題となった「年収103万円の壁」。今年から123万円に引き上げられ、「178万円をめざす」となったことで主婦層を中心に歓喜の声があがったが、「1200万円の壁」を前にすると、今回の改正は、大海の一滴に過ぎないのかもしれない。

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部

年収1200万円のB男さんが「年に1回の贅沢」と語るディズニーランド(写真はイメージです)
年収1200万円のB男さんが「年に1回の贅沢」と語るディズニーランド(写真はイメージです)