「これでいいのだ!」

じつはハルカと夫は、性に関すること以外ではうまくいっている。彼女のSNSでは、いまも夫と楽しそうに旅行をしている姿が上げられているし、そこには2人の笑顔もある。そして彼女は口にする。

「それ以外は全然OKなんだけど」

「性のことだけ?」

「うん。なんでだろう~」

当初、私はハルカが夫との間に子供ができることを躊躇するのは、家庭を顧みなかった彼女の父親に対するトラウマなのではないかと考えていた。だが、それも違うようだ。というのも、長期間同棲していたホストの彼との間には、別の感情が存在していたのである。

「前の人とは中出しもあったのね。結婚したいだけでなく、むしろ子供ができたらと思ってたし……」

ハルカは、自分と夫との性の問題について、次のように総括する。

「最初が、ファーストインパクトが強かったのよね。ダメ、この人とは合わないって思っちゃったんだよね。ちょっと一方的な感じで、相手のことを考えてないエッチなんだよね」

そう言ってのけるのと同時に、風俗という外の世界で、性についてあらゆることを知ってしまった彼女の性欲は、いまなお、ますます亢進しているという。

「最近、お店に出るのが楽しくてしかたないの。それこそ相性のいいお客さんに出会うと、これまでにないくらい乱れてる。うわあ、私ってこんなにすごいんだって、自分でも引いちゃうくらいに……」

セックスは好きだけど旦那とはできない…人妻風俗嬢ハルカがレスに至った原因「相性のいいお客さんとだと自分でも引いちゃうくらいに乱れちゃう」_3
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それなのに、彼女の見た目にはいまだに清涼感が漂っている。いわゆる、性の匂いがほとんどしないのだ。こういうことは、過去に1000人以上の風俗嬢と会ってきた私にとっても、稀有な例である。いったいなんでなんだと、理解に苦しむ。

もはや持って生まれた才能なんだろうと、思うほかない。

私は目の前の彼女に言った。「考えたら風俗歴、20年以上だよ」「そうだね。20年選手だね。ヤバイね。はっはははは。ヤバイね。でもさあ、こんだけやってて辞めないってのは、私、やっぱ好きなんだよね。本当に口ではヤダぁとか言ってながらさあ、根本は好きなんだよね」

笑顔でそう言い切るハルカを見て、昭和生まれの私の頭のなかには、赤塚不二夫が『天才バカボン』のなかで、バカボンのパパに言わせた、あのセリフしか出てこない。

「これでいいのだ!」

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著者が20年以上にわたる風俗取材で出会った風俗嬢たちのライフヒストリーを通して、現代社会で女性たちが抱えている「生と性」の現実を浮き彫りにするノンフィクション。

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