活動休止直前、「暮らしのBGMになりたい」の真意
そこから10年。2024年、カナは35歳になった。
学生時代「会いたくて 会いたくて」に共感し、やがて109からルミネに通う社会人となり、結婚と出産を経た同世代はどこへ向かうのか。
そう、イオンである。
イメージやスタイルの一貫性を大切にするアーティストにとって、このような転身はとても勇気がいる。ギャルのカリスマ浜崎あゆみ、あるいは倖田來未が、渋谷からせいぜい港区あたりにとどまっているのに対し、カナはルミネを通過し、郊外へと進出していく。
西野カナを語るときに多用される「同世代からの圧倒的な共感」というのは、徹底的なマーケティングによって運営される「プロジェクト西野カナ」にとって、絶対に譲れないコーポレートアイデンティティなのだ。
活動休止の前年、2018年11月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』に出演したカナは、こう発言している。「暮らしのBGMになりたい」。
なんという覚悟だろうか。
目指すのは暮らしに寄り添うこと。その姿勢はファッションビルの域を超え、ライオンやクラシエ、P&Gといった企業と同じ方向を向いている。
では、アーティストとしての一貫性はないのか? と問われれば、当然ある。それが「LOVE」だ。
カナがこれまでにリリースしたアルバムのタイトルは、『LOVE one.』『to LOVE』『Thank you, Love』『Love Place』『with LOVE』『Just LOVE』『LOVE it』。ベストアルバムは『Love Collection』。そして、復帰後に発表されたEPは『Love Again』。
これがカナの目指す「暮らしのBGM」である。もはやLOVE職人の域。
筆者が敬愛する人物に、みうらじゅんという人がいる。彼は言う。
いかに「飽きないふり」をするかかが僕の仕事なんですよね。「また」だと飽きられてしまうので、「まだ」と濁点がつくところまでやる訓練をね。「またやってる」を通り越して「まだやってる」って言われることが最終的にプロの称号ですね。
「まだやってる」と言われることがプロの称号(プレジデントオンラインより)
さらに、みうらじゅんはこんなことも言っている。憧れのスタイルとしてよく言われる「キープ・オン・ロックンロール」という生き様は、ロックンロールではなく、キープ・オンのほう、続けることにこそ意義があり、難しいのはロックな生き方ではなく、キープ・オンを貫くことなんだと。
毎年みうらじゅんが、その年の個人的なお気に入りに送る「みうらじゅん賞」が先日発表された。いつの日か、西野カナの「LOVEまだやってる」が評価され、受賞することを願ってやまない。