日本にインプラント治療が多い本当の理由
インプラント治療は、日本の歯科治療の一つの柱になっています。確かに「噛める」ようになるという点で、インプラントはよい治療法の一つです。とはいえ歯を失った際の治療法として、日本はインプラントに偏りすぎているように感じます。
日本では患者さんのむし歯や歯周病が悪化していると、すぐに抜くことを考えます。そしてインプラントに置き換えることを勧めます。インプラントは広く認知された治療法で、それなりに歳を重ねた人なら、周囲にもインプラントにしている人が少なくありません。
そこから「では、お願いします」ということにもなります。
しかし前項で述べたように、インプラントには問題点もあります。すでに述べたようにスウェーデンの歯科医療では、可能な限り自分の歯を残すことを考えます。それが無理な場合は、自分の歯により近いブリッジ治療にできないか検討し、それも無理な場合にインプラントを考えます。そして、インプラント周囲炎になりにくいスクリューリテインを選びます。
そうした過程を飛ばして、いきなりインプラント、それもセメントリテインで行う治療が、日本の歯科医療の現状です。
そこには日本の歯科医療が、アメリカの歯科医療に倣いがちなことがあるでしょう。そしてもう一つ、インプラントが自由診療ということもあるように思います。
繰り返し述べたように日本の保険制度では、むし歯や歯周病の治療の点数は低く抑えられています。患者さんにとってはありがたい話ですが、一方で歯医者にとっては場合によって赤字になりかねない治療です。
加えてラバーダムを使わない歯医者の場合、治療時に患部に細菌が入り、数年後に再発する可能性が高いのです。再発するたびに症状は悪化します。それなら「さっさと抜いてインプラントにしたほうがいい」となりやすいのです。
ここで、インプラントを勧める歯医者が多いのは、保険の根管治療に対し、インプラントは自由診療だからです。自由診療なら値段は歯医者が自由に決められ、それなりの利益を確保できます。
インプラントは1本50万円前後します。しかしラバーダムを行い、ちゃんと治療する自由診療の根管治療という選択肢もあります。日本では「インプラントがいい」という刷り込みもあり、高くても「インプラントで」ということになりやすいのです。
文/前田一義 写真/Shutterstock