軍と警察、野党を中心とする国会議員、市民が一斉に国会へ
そこで国会の動きと憲法を止めて独裁を図ったのが今回の戒厳令とみられる。
日韓関係筋はこう語る。
「政府の政策に反対されるとか予算が通らないというのは、議会制民主主義において選挙に負ければ当たり前です。大統領はそれを“立法独裁”と呼んで野党やその支持者を『犯罪者』『国民の自由と幸福を略奪している悪徳な北朝鮮追従反国家勢力』と敵視しました。
韓国の世論では、尹氏は見識も思想も、国政責任者に求められるものを持ち合わせていないとの認識が急速に拡大しています」(日韓関係筋)
尹氏が戒厳令司令官に任命した陸軍参謀総長が出した命令には、
① 議会と政党、政治団体、集会などすべての政治活動やストライキを禁止する
② 報道と出版を戒厳令の管理下に置く
③ 当局は令状なしに逮捕、捜索を行うことができる
といった超法規的措置が並んだ。
「要するに、2021年にミャンマーの軍部が起こしたようなクーデターを図ったということです」(全国紙デスク)
だが、尹氏はこの作戦を大統領官邸中枢と陸軍上層部のごく一部とだけ進めた模様で、軍部隊の動きが遅れた。
部隊も大統領演説を聞いてから出動が命じられた気配がある。
「演説を聞いて、軍と警察、野党を中心とする国会議員、そして市民が一斉に国会へ向かい、国会議事堂を誰が押さえるかの競争になりました。国会が定数の過半数の議員の出席で『戒厳解除要求案』を可決すれば大統領は戒厳令を解除しなければならないと憲法に規定されているからです。
戒厳解除要求案を可決しようと野党議員が国会を目指し、これを阻止するため軍部隊と警察も国会へ向かいました。そしてこの軍と警察の動きを止めて議決を助けようとして市民も駆けつけたのです」(韓国紙記者)
この“国会争奪戦”をタッチの差で野党と市民が制したことが、今回のクーデター失敗を決定づけた。
「野党と与党内のアンチ尹派の議員の国会集結が信じられないほど早かったんです。警察が国会出入り口を封鎖しましたが、議員や秘書らはフェンスをよじ登って次々と中へ入りました。
そこへ市民が駆けつけ、警官隊と対峙する形で多数の軍部隊の国会侵入の壁にもなりました。軍特殊部隊はそれでも数十人が国会敷地内に入り、与野党のトップや国会議長の身柄拘束を図るため窓ガラスを破って議事堂内に突入しました。
ここで議事堂玄関などをバリケードで封鎖していた議員の秘書らが消火器を噴射するなどして抵抗し、部隊の足を止めました。
そして尹氏の演説開始から約2時間半後の4日午前1時ごろ、議事堂内で190人の出席議員全員の賛成で戒厳解除要求案が可決されたのです。この瞬間、戒厳令の法的根拠が失われたと捉えられ、軍が国会から撤収を始めたのです」(韓国紙デスク)