「『人件費が上がる』という報道への怖さもある」
国の想定では、人件費に81%をあててくれると想定している委託費は、実際には社会福祉法人では70.5%、株式会社では51.9%にとどまっている(※東京都の「保育士等キャリアアップ補助金の賃金改善実績報告等に係る集計結果」2017年度実績)。
代わりに、管理費や事業費、関連事業や本部経費などに、幅広く流用されているのが現実だ。今回引き上げられる10.7%の人件費は果たして保育士の手に渡るのだろうか。
「弾力運用できてしまう“委託費”から“人件費”を分離しない限り難しいと思います」と前出のアヤカさんは話す。
「国も民間に頼った弱みか義理からなのか、弾力運用しやすい民間のメリットを残しているようですが、現状では人件費が増額されようと保育士の手元にお金は渡りません。運営側の民間企業の理事やトップが、本部経費などの名目でそのお金を吸い上げてしまいます」(前出・アヤカさん)
では、公立の保育園はどうなのだろうか。
「私のような公立保育園の保育士、地方公務員の給与はラスパイレス指数(地方公務員の一般行政職の給与水準)を基に決められているので、今回の増額分は反映されないと思います。それでも、過去に勤務した民間の保育園は年収が400万円ほどだったので、今630万円いただけていることを思うと、万が一、きっちり増額分をいただける民間の保育園があったとしてもそれで転職しようなんて思いません。
現在のシステムでは、人件費が増えようと、もらえない保育士がほとんどですから、継続的に国から確実に支払われる地方交付金(公定価格)を上げてほしいのが本音です」(前出・コムムさん)
地方交付金は、公的サービスの格差などをなくすために国から地方公共団体、保育園などへ、4月、6月、9月、11月の年に4回支給される。この金額を増やすことで、保育士の給与アップにつながるのではないか。
「ただ、あまり語られてはいませんが『人件費が上がる』という報道への怖さもあるんです。額面が大きく上乗せされるわけでもないのに、園長や上から『お給料が上がるんだからもっと頑張らなくちゃ』と言われます。言葉では『頑張ります』と返しますが、内心『これ以上何を頑張れと?』と精神が追い詰められるんです。
実際に受け取れるお給与アップに加え、このようなプレッシャーを与える発言やパワハラがなくならない限り、人手不足は加速する一方です」(前出・アヤカさん)