コロナ禍で買ったいらんもの
不安はまったくなかった。
35歳で訪れた長い休暇を二人は思い思いに過ごしていた。
「とにかくヒマやからもうワープする感じで時間飛ばしてましたわ。 メシも食わんもんやからガンガン痩せて。うん、 最高でしたね。夕方に起きて、朝まで酒飲んで、眠って。で、夕方また起きて、酒飲んで寝る。
4リットルの業務用ウィスキー買ってね。俺とコロナどっちがくたばるかの勝負や、勝負したろと思ったら1か月経ったぐらいで(ウィスキーが)空になった」(友保)
「何してたかな。ほんま外出れんくて、それこそずっと飲んでましたよ。飲んで映画見て、その頃にサブスク入ったんすよ」(小林)
ひたすら飲んで飲んで、飲まれて飲んでという日々の中で、金属バットらしからぬ習慣を始めていた。
「小林、筋トレしてなかった?」(友保)
「筋トレは…してたっけな」(小林)
「わし、めっちゃ筋トレしてて、酒飲んで筋トレして、もうキャンキャンでしたわ」(友保)
筋トレの効果はさておき、30代半ば頃の友保といえば、こけた頬、目の奥にひそむギラつき、ジャックナイフのごとく研ぎ澄まされた佇まいがあった。
「コロナ禍の仕事で、『どうやってコロナを乗り切るか』メッセージと写真1枚くださいって言われて、で、『わし死んだら、ジャンパーあげますんで吉本に言ってください』みたいなメッセージと自撮り送ったんです。
それがTwitter(現在はX)で回り回って俺んとこに『人を不安にする顔の写真を送らないでください』って苦情きましたからね」(友保)
メシも食わずに酒を飲み続け、所在なく日々を過ごす中で、あり余る時間は二人に思いもよらない物欲を加速させた。
「めっちゃいらんもん買いましたね。 酔っ払って、下駄とかナイフとか。俺、田舎の土地も買おうとしてましたね。1番安いのが山口県にあった駅から徒歩86分。
これ、旅行じゃないの。だけど、井戸2個付き。なんかその頃、夢で……穴掘る夢みたんですよ。異常にその掘ってる俺が楽しそうやったんで、土地でも買うて穴掘ろうかな思ったんすよね」(友保)
「たしかその頃やったかな。僕は高級枕買ったんです。枕さえよければすべて体調がよくなるみたいな洗脳を受けて。4万円ぐらいの枕。いつでも買ったところに持って行ったら中身詰め替えてくれるみたいな。あれからもう4年くらい経ってますよね? 1回も詰め替えてない。枕持って梅田まで行ってられへんやろ」(小林)
「枕変えてよくなったん?」(友保)
「いや、それまでの枕が終わってたんで。コピー用紙ぐらいペタペタやったから」(小林)