「HSP」とは特性を表すことば
次に、数年前からメディアで見聞きするようになった「HSP」について考えます。
HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で、直訳すると「非常に敏感な人」となります。アメリカの心理学者のエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念であるといわれ、さまざまな事象への感受性が強い性質を生まれ持った人を示すとされています。
その特性は、一般にほかの人が感じないような刺激に過剰に反応する、感情の反応が強い、音・光・においなどの刺激に敏感であるなどで、興奮による疲れが激しいといったことです。
HSPとはその人の特性を表すことばであり、病名や病気を示す用語ではありません。HSPということばが知られるようになった背景には、著名人がSNSやメディアで発言したり、悩む人たちのコミュニティがネット上で広まったりしたことがあるようです。
「自分はHSPだ」と言って医療機関を受診された場合、そのこと自体が治療の対象にはなりませんが、背後にうつ病や適応障害などの病気が隠れているケースはあります。
冒頭で紹介した「僕はHSPです。薬はありますか」という質問の場合は、医師はまず、メンタルと体の両面から病気ではないかを診断することになります。
刺激に敏感な性質や体質というと、誰しも「自分はそういう面がある」と思うのではないでしょうか。とくに、人間関係など何らかの悩みごとがあるときや体のどこかが不調なときには、周囲の人の言動や社会のできごとに過敏に反応し、同じ悩みの人に強く共感したり、音や光、においにも敏感になったりすることはあるでしょう。
もし、ストレスから対人関係に過敏になり、自分はHSPだと悩んでいる場合、そのストレスが軽減すると、対人関係の敏感さも気にならなくなるかもしれません。
「カサンドラ症候群」でつらいときは
近ごろ、患者さんから耳にすることばのひとつに、「カサンドラ症候群」があります。たとえば、「わたしはカサンドラ症候群です。とても憂うつで将来には不安しかない」「カサンドラ症候群かもしれません。受診してはだめですか」といった声です。
カサンドラ症候群とは、発達障害のひとつである「アスペルガー症候群※」のパートナーや家族など、身近な人とのコミュニケーションが原因でストレスが積み重なり、心身に多様な不調が表れることをいいます。
カサンドラはギリシャ神話に登場するトロイの王女の名で、神の呪いで苦しんだ境遇になぞらえてその名が付けられたといわれます。カサンドラ症候群も、病名や病気ではありません。しかし、パートナーや家族などへの対応の方法について知識を得たり、専門機関に相談したりすることは重要でしょう。
また、五月病やHSPと同様に、そのことで悩んで心身の不調が長引き、日常生活に差し支える場合は、適応障害やうつ病といったメンタルの病気の可能性もあります。
※アスペルガー症候群は現在(2013年のアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』の発表以降)、「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」のひとつに分類されています。