まんがが理解と問いにつながる
―― 山﨑さんご自身も小学生の頃にまんがで歴史を学ばれたそうですが、まんがで歴史を学ぶ楽しみというのは?
一つには、まんがは文章よりも情報量が多いということがあります。たとえばその人物がどういう顔をして、どういう服装をしているのか。また、中国だったら皇帝の座る玉座がどういうものか、ヨーロッパだったらベルサイユ宮殿の中がどうなっているのかとか、そうした服装や建築物などが歴史の理解につながることはとても大きいんです。
実際の授業でも、文字による説明だけでは生徒たちもその場面の想起ができない。ビジュアルがあってはじめてその場面を想起することができるんです。ただ、教科書に載っている肖像画は行動しないし、しゃべるわけでもない。だけれども、まんがではその人物がしゃべったり、思い悩んだり、そして勝負をかけたりする。そういうところを通して歴史の理解が深まるのだと思います。
たとえば第一次大戦後、敗戦国であるドイツには巨額の賠償金が科せられました。「巨額の賠償金を科せられた」だけではただ文章の表現ですが、パリ講和会議の会場でこの賠償金を突きつけられたドイツの代表が、眉間に皺を寄せて冷や汗を垂らしながら悔しがる。その表情が一つあることで情報量が何倍にも増える。直感的にその事象がこの国にとって良いことなのか、悪いことなのか、喜ばしいことなのか、悔しいことなのかということを見て取ることで、より理解を深めることができると思います。
ですから、登場人物をただかっこよく見せるだけではなくて、悩んだり、自問自答したり、そういう要素をたくさん入れてほしいとアドバイスさせてもらいました。それが生徒自身の問いにもつながるんです。
―― 各項目の主人公には実在の人物だけでなく架空の人物も登場して、ストーリーとして楽しめるような工夫もなされています。
近現代になると架空の人物が出ることが多くなりますが、とくに近現代は、国を動かす政治家だけではなく、同時代の普通の人たちの考え方や、かれらがその時代をどう生きていたかを知ることも大事ですから、その辺はシナリオライターの方たちが非常にうまくストーリーに仕立てているなと感心しています。
特に十六巻(冷戦と東西対立)、十七巻(多極化する世界)では、多様な地域の多様な事象を描くことになるので、架空の人物を登場させて、その人の視点からさまざまな地域とさまざまな世界の動きを関連づけて紹介しています。それに十七巻は、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの戦後を一巻に凝縮して描いたというのが画期的だと思います。すごく読み応えがあるし、おもしろい。
しかも十七巻、十八巻(進むグローバル化)は、現在の日本にも関連が深いので、十七巻、十八巻だけ読んでも、最近の世界の政治や経済の動向に興味づけができると思います。
日本史は親友、世界史は……
―― 最後に山﨑さんにとって世界史とは?
私は福岡県の太宰府というところで生まれ育って、小さい頃からうちの町は歴史が古いんだと聞かされてきました。校歌を歌えば太宰府、遠足に行くとなれば太宰府、何でもかんでも太宰府で、近くには重要文化財とか国宝とかがたくさんある。そういう中で生まれ育ってきましたから、日本史にはずっと接してきて、いってみれば親友みたいなものなんです。何でも知っていて、今さら好きとか嫌いとかいう関係ではないんですね。
世界史には、ほとんどの人と一緒で、高校のときに初めて出会いました。すでに物心がついていますから、学べば学ぶほど現代の世の中がすごくよく分かってくる。世界史を知ることで、いま起きているパレスティナ問題も分かるし、ロシアのウクライナ侵攻も分かるし、経済の動きも分かる。知れば知るほど好きになるので、世界史は恋人という感じですね。
ただ、このことを生徒たちにいうと、意地悪な生徒が、「地理は何なんですか」と訊いてくる。私は地理も教えていますからね。そこで、最初は「ちょっと人にはいえない関係かも」とかいったりもするのですが、真面目にいえば、日本史も世界史も地理条件の中で育まれていて、地理はそれらのベースになるわけですから「家族みたいなもの」ですね。
今回の『学習まんが 世界の歴史』で、みなさんもすばらしい恋人に出会ってほしいですね。