歌手、ナレーション、司会と幅広い活躍

西田さんの活躍は俳優業だけに留まらない。歌声がよかったことでも知られる。

1981年にリリースしたシングル曲「もしもピアノが弾けたなら」は、好きな人に気持ちが伝えられない男性の内気な性格と不器用さを表した内容。

西田さんの優しい歌声が、曲中の主人公の強引ではない人柄にぴったり合っていた。

また先日亡くなった大山のぶ代さんが声優を務めていた「ドラえもん」の映画主題歌も歌っている。映画『ドラえもん のび太の日本誕生』で「時の旅人」という楽曲を歌唱しており、ファンの中ではドラえもん映画の主題歌でも指折りの名曲とされている。

『時の旅人』ジャケット(西田敏行公式HPより)
『時の旅人』ジャケット(西田敏行公式HPより)
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さらにその強張りのない声の質感は、新しい人生を送る人らに密着したドキュメンタリー番組『人生の楽園』(テレビ朝日系)のナレーション業でも生かされた。何かを目指している人たち、がんばる人たちの背中を押すような温かな声色だった。

そういった西田さんの人柄が存分にうかがえたのが、関西ローカルのバラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)である。

視聴者から届く疑問や解決してほしいことを、探偵たち(出演タレント)が調査する同番組。西田さんは2001年1月から2019年11月まで、ロケのVTRを見守る2代目局長を担当した。

初代局長の上岡龍太郎さん(2023年逝去)は博識と舌鋒の鋭さが持ち味で、VTRの内容によっては厳しい意見が飛び出すこともあり、番組に緊張を走らせることもあった。

そんな上岡さんの後任ということで、西田さん自身はプレッシャーを感じるところもあっただろう。

ただ、西田さんはとにかく涙もろかった。それが上岡局長とは違った魅力を番組にもたらしたのだ。

VTRが流れる前の、調査依頼のハガキを読み上げている段階で、すでにウルっときていることもあった。

感動的なVTRのあとには、西田さんがハンカチで涙を拭う光景がお決まりになって、視聴者は西田さんが泣くか、泣かないか、予想をしながら番組を観るのが一つの楽しみとなった。

感受性が豊かな西田さんだったが、同番組降板に関してはシビアな気持ちが理由として働いた。

上岡局長時代は“大人の乾いた笑い”が番組の特徴としてあり、西田さんがそれをおもしろく感じていたという。

ところが自分が局長になってからは“濡れた感性”の方が多くなったと指摘された。

「軌道修正していかないとこの番組のコンセプトが薄れるという危惧があったので、ぼちぼち退くべきだなと」と卒業の意向を固めた。

そのコメントを聞いたとき、筆者は、柔らかな視線の奥にある的確さに鳥肌が立ったのを覚えている。