「生きづらい」と思うことを認める必要も

――なぜ、中高年の男性は多様性社会で「生きづらい」と感じるようになったのでしょうか。

ゆう氏(以下同)昭和的な価値観の中では、家父長的な考えのもと、父親が絶対的な権力・地位を持っていました。父親の言動がいくら理不尽であっても妻や子供は黙って従うしかなかったのです。

また、学校や会社でも、先生や上司から理不尽なことで怒鳴られても黙って耐えて従うのが当然でした。こうした価値観がどの世代でも共有されていたため、多くの人が疑問を抱くこともなく、年長優位や男性優位を当たり前のものとして生活することができていました。

その後、平成を経て令和になる中で、男女平等の考え方、パワハラの概念、暴力や暴言に対する否定的な価値観、多様性の尊重といったものが浸透していき、家父長的な考え方は一定の年代以上の人だけに残された古い価値観となりました。

特に、女性の社会進出が進むとともに、国際社会からの影響を受けて『人権』を尊重することの必要性が高まる中、誰であっても尊厳ある一人の人間として扱うことが求められるようになりつつあります。

こうした価値観は若い人にとっては当たり前になっている一方、50代前後の人にとっては、良いことであると頭では理解しつつも、自分の価値観との大きな隔たりを感じて戸惑いや不安を覚えてしまいます。

だからこそ、自分の考えや価値観に合わないことに対して、納得できないことがあったとしても、“老害”と思われたくないと考え、沈黙という選択肢を取り、結果的に生きづらいと感じてしまうのでしょう。

――どのような解決方法がありますか。

価値観の変容を行なうことが有効と考えられます。そのためには、認知行動療法に基づいた治療が効果的です。

認知行動療法では、人が何かの行動を起こすときに、出来事→認知(価値観を含む)→感情→行動といった流れがあると考えます。

例えば、昭和的な価値観の人が会社の上司だったとします。出社した若手社員が上司に挨拶をしなかったとき(出来事)、「上司には挨拶すべき」と考え(認知)、怒りやいら立ちが高まり(感情)、「おい、お前、上司に挨拶するのは常識だろう!」と怒鳴ってしまいます(行動)。

このように昭和的な価値観が根底にあると、若手社員が挨拶をしなかっただけで、怒りやいら立ちが生じて、怒鳴るという行動につながってしまいます。

そこで、「上司には挨拶すべき」という認知(価値観)を変容させることで、怒りや苛立ちを抑え、怒鳴ることを防げます。

投稿者の父親は、このような“怒鳴る”といった行動をとることはいけないと認識しているため、昭和的な価値観から生じる認知や怒りやいら立ちの感情をグッと抑えて沈黙という行動を選択していると推察されます。

「上司には挨拶すべき」という認知と、「沈黙する」という行動がずれているために、生きづらさを感じているわけです。

もし「怒鳴る」という時代に合わないことを防ぎ、かつ生きづらさを解消したいのであれば、認知を変容させることが、最も適切な解決策となります。

ただし、価値観を変容させるというのは、自分自身のこれまでの生き方を否定することにもつながるため、誰でも行なうべきこととは限りません。ただ、自分の考えが古くて変える必要があるなと前向きに捉えている人であれば、認知行動療法のワークなどを用いて変容してみるのは良いでしょう。

一方で、自分の価値観は大切にしたいという人であれば、同じ価値観を共有することのできる仲間との付き合いを優先することによって「生きづらい」という気持ちを解消できるかもしれません。

心理士「ゆう」氏:オンラインカウンセリング「ココシェル」を運営している。問題行動を起こす子どもの心理を専門としているが、その他家族関係や子育てなどについても悩みの解決につながるアドバイスを多数発信している。

「ココシェル」 https://cococierge.half-open-consultation.com/

取材・文/集英社オンラインニュース編集部