対立激化の懸念から甘々の裏金議員公認
「こんなのはただのリップサービスに過ぎない」
野党議員の1人は石破首相の所信表明演説原稿を見て、そう憤った。
原稿では政権の方針について「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」を五本柱としていくと綴られ、最初に挙げた「ルールを守る」では裏金問題について触れられたが、その項目は全23ページ中、たったの1ページしかなかった。
内容も「問題を指摘された議員1人1人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げます」「(政治資金について)更に透明性を高める努力を最大限していくことを固くお約束申し上げます」などと書かれているのみで、具体的な方法については言及されていない。
他の「守る」については複数ページにまたがって様々な政策が並んでいるのと対照的だ。
野党議員は「冒頭に掲げて大事そうに扱っているだけで、その中身は質も量も伴っていない。総理大臣が代わっても、裏金問題をただすことができない自民党の体質はまったく変わっていない」と手厳しく批判した。
そんな石破首相だが、解散総選挙が10月27日に迫るなか、裏金問題を抱えていた議員も原則として公認し、比例代表との重複立候補も認める方針だ。
石破首相は総裁選で、裏金議員の公認について「自民党として責任をもって有権者にお願いできるか厳正に判断されるべき」とも述べていたため、当初は厳しい対応を取るかもしれないと見られていたが、特段の対応は取らずに選挙に臨んでいく予定だ。
自民党関係者は語る。
「裏金議員を非公認にすると、そもそも選挙における自民党の候補者が大きく減ってしまい、代わりの候補者を立てる時間的猶予もないため、公認しないという選択肢は初めからなかった。
ただ、一時は裏金議員を公認する一方で、比例代表との重複立候補を認めない案も挙がっていた。重複立候補ができなければ、小選挙区で落ちた場合に比例復活することができず、国民の審判はより厳正に行なわれることになるからだ。
しかし、裏金議員が続出した旧安倍派などの保守系議員からの反発が大きく、最後は比例復活を認める従来通りの対応を取ることで落ち着いてしまった」
石破政権では保守系議員が閣僚・党役員人事で冷遇されていることから、すでに党内には亀裂が走っている。
これから総選挙に臨んでいくうえで、これ以上の対立の激化は避けるべきと判断されたのだろう。