先輩に恐喝されて闇バイトへ
「9月にどんなことが起きたか聞いていいかな」
「はい。少年院に入る前からつながりがあった暴走族から脅されていて……」
「それってインスタのDMのやりとりで教えてくれた、警察に相談に行ったやつだよね」
「はい」
ワタルは地元の先輩との関わりが切れずにいた。これは仮退院でも言っていた心配事だった。
「自分、単車買ったんですけど、売った人が単車についていたマフラー代をよこせって言ってきて……」
なるほどね。先輩に恐喝され、それでお金が必要になった。高坂くんに貸してほしいって連絡したのは、このときか。
「渋谷で会ったとき、仕事頑張ってるって言ってたけど、仕事どうしてたの?」
「仕事は頑張ってました」
「それ以上にお金が必要になったということか」
「はい」
ワタルはうなずいて私の方を向いた。
「それで闇バイトにつながったってこと?」
「はい」
「闇バイトは単車の売り主? 暴走族とか?」
「違います」
ワタルは目をそらし、言いづらそうに口を開いた。
「多摩少年院で一緒だった子です」
「中からずっとつながってた子?」
ワタルが首を振った。
「つながっていたというより、インスタで連絡とかたまに来て……」
「んで、その子に誘われて、闇バイトか。その子は捕まってないの?」
「わからないです。今回の事件は一緒じゃない」
その子から闇バイトにつながったのか。そこは想像していなかった。この事件はそこから始まってしまったのか。
「マイナンバーとか戸籍謄本とか出して……」
この後、ワタルは「キム」からの指示で犯罪を手に染めていくことになる。キムはニュースで取り上げられていた「ルフィ事件」指示役の別偽名であるキムと同一人物かどうかはわからない。しかし、これで事件関与の入り口が見えてきた。
「思い通りにいかなくて、じぼうじきになってしまった」
数日後、ワタルの両親と高坂くんと会い、今後の裁判についての打ち合わせをした。
情状証人(刑事裁判の法廷で、被告人の罪が軽くなるよう、被告人の人となりを述べたり、再度罪を犯さないように監督することなどを裁判官の前で証言する人)に高坂くんが立つことや、何年先になるかはわからないが、ワタルが社会に帰るときは高坂くんの自立支援施設に帰ることなどの相談だ。
ワタルの母親は仕事を辞めて外にあまり出ない生活をしていると言った。父親は転職も考えているが現状は難しいと語った。
ワタルが警察に捕まる前、おそらく事件を起こす前だろうか、ワタルから「地元を離れて生活したい」と相談を受けたと父親は言っていた。あのときに遠くへ行かせていたら、こんな事件を起こすことにならなかったかも、と悔やんでいた。
ワタルの通帳に、490万円の入金があったことを警察から知らされ、その後、100万円ずつおろされて、いまはゼロだという。いま思い起こせは、そのあたりからワタルは外出をしなくなり、自室に籠り、何かに怯える生活をしていたと言っていた。
そして、ワタルの逮捕後には、銀行から口座開設のお知らせの封書が届いたという。もちろん、これはワタルが開設したわけではなく、闇サイトで戸籍謄本を出すと、こういったことにも使われるということだ。