「強盗殺人未遂で10代の少年を逮捕」のニュース

その後、何度かワタルと会う約束をしたが、体調不良などを理由にキャンセルされていた。

連絡はとれており、暴走族のことで警察に相談に行った報告や、お金を貸してほしいとお願いされたと高坂くんから聞いていた。ワタルに何かよくないことが起きていると思わざるを得ない状況だった。

感じていた危機感はある意味、勘に近いものだったが、お金がどうして必要か聞いても、自分の欲しいものを買うためとしか答えない。法的な相談窓口、必要なら警察へ行くことをすすめたが、こちらの言葉が届いているように感じられなかった。

ワタルにとって、私たちは「信頼できる大人」になれていないのだろうか。

相談に行った報告や借金のお願いを受けていた(写真はイメージ)
相談に行った報告や借金のお願いを受けていた(写真はイメージ)
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年が明け、やっと約束ができた2023年2月〇日、ワタルの家の近くまで行くことになっていた。しかし、この日も体調不良を理由にドタキャンされてしまった。

「ワタルに何か起きていることは間違いないと思います」

高坂くんは、お金を貸してほしいという連絡がきたときのことを言っているようだ。

急なお金が必要になるときは、先輩から集金の命令が入ったりしていることが多い。騙されたり、ハメられてお金が必要になる場合もある。

「私たち、ワタルに寄り添えてないのかなー」

高坂くんが私の方を見て、その言葉を呑み込んで考えているのがわかった。高坂くんに言ったわけじゃなく、自分の心の声が出てしまっただけだ。でも、高坂くんも同じことを思っているようだった。

人に寄り添うことはとても難しい。ワタルは何を求めているのだろう。

ワタルからドタキャンされた翌々日、テレビのニュースが耳に入ってきた。

「2月○日、強盗殺人未遂で○○県○○市在住の10代の少年を逮捕した」

高坂くんからすぐに連絡がきた。LINEにリンクが貼られていたのは地方で起きた強盗事件のニュース。この10代の少年がワタルかもしれない、というのだ。

まさか、まさか、と思ったが、しかし、絶対違うという確証もない。高坂くんがワタルの父親に電話し、事実確認をすることになった。

文/中村すえこ
写真/AC、shutterstock

帰る家がない 少年院の少年たち
中村すえこ
帰る家がない 少年院の少年たち
2024年8月8日発売
1,650円(税込)
220ページ
ISBN: 978-4-86581-433-0

幼少期から親に虐待されて家出、食うために窃盗や強盗をした少年。友達の身代わりに詐欺の受け子をして抜けられなくなった少年。それぞれの犯罪の裏には、まだ自立できない年齢なのに、頼れる大人も安らぎもないという家庭や社会の問題がある。
また、少年院を出ても昔の仲間が足を引っ張る。追い詰められた結果、闇バイトの実行犯として懲役刑を受けた18歳の「特定少年」は「捕まってホッとしている」と言った。頼れる人のいない少年が生きていくには多くの困難がある。自身も少年院経験者の著者は、彼らが犯罪へと踏み込んでいくのは少年だけの問題ではなく、社会、すなわち大人の問題でもあると語る。人は人とつながることで生きていける。支えがあれば、人は変われる!

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