ワタルの心のブレーキを増やしたい
「ワタル、質問していい?」
ワタルが私の方を見てうなずく。
「なんで、この映画の取材を受けることにしたの?」
「自分の心のブレーキになると思ったからです」
ワタルは少年院の少年たちにインタビューする映画『記憶2』の主旨を理解し、そのうえで協力することを決めた。そして、それが心のブレーキになると思ったと言っている。その気持ちはよくわかった。
心の中にある善と悪。善とつながることで、戻れる綱が保てる。仮退院後、ワタルは犯罪をしたけれど、どこかで戻りたい気持ちがあったから、いまこうして私たちと会っているのだと思った。
「悪いことしちゃっててさ、お母さん泣いてたでしょ」
「はい……」
母の涙を見て、ワタルはどう思ったのだろう。
「いまは、どうにか仕事もつづいていて、頑張ってます」
仕事は荷物の仕分けをしているという。夜勤もあるが比較的時間の融通もきき、自分のペースに合わせてシフトを組める。これまで仕事が長続きしなかったが、今回は少しずつお金も貯められていると言っていた。
社会に戻り、「セカンドチャンス!」や私に連絡をする子のほとんどは、「頑張れている子」であり、「頑張れていない子」は連絡をしてこない。「頑張れていない自分」を知られたくないのが理由のようだ。
ワタルも今日、この日に会う約束をするまで、会えない自分だったのかなと思った。今日、社会でつながれたことを大事にしたいと思った。
ワタルの心のブレーキをもっともっと増やしていきたい。
その後、屋上から1階にある飲食街「渋谷横町」に移動し、ワタルの出院をみんなで乾杯し、好きなものをお腹いっぱい食べた。
高坂くんはワタルと交わした「今度は社会で美味しいものを食べようね」という約束を守ることができて、嬉しそうだった。
「僕は少年院で出会った子と社会でお酒を飲めることが楽しみなんだ。ワタルが20歳になったらお酒を一緒に飲みたいよ」
20歳まであと1年くらいだ。それほど遠くない未来の約束。先の約束があるっていいな、と2人の会話を聞いていてそう思った。
しかし、次にワタルに再会したのは、想像していなかった場所だった。