海外の顧客開拓を進めようとしたが…
C-stationの調査「《2024年調査》 YouTuber・VTuberファンの、マンガ・アニメ・キャラクターへの反応を分析する」によると、VTuberのファンはマンガやアニメ好きであり、YouTuberやアイドル、お笑い芸人などが好きな人と比べて、その比率は圧倒的に高い。
しかし、CCCマーケティングが行なった「マンガに関するアンケート調査」の中で、マンガを毎日1冊以上、週1~3冊程度読むマンガ好きの人の割合は全体の2割程度に過ぎず、これはVTuberのファンになる潜在層は母数が限られていることを示している。
また、YouTuberであれば、流行りのスポットやスイーツの食べ歩き、キャンプ、釣りなど、リアルな体験を見せることが可能だが、バーチャル空間で活動するVTuberは、歌やゲーム配信が主体であり、企画やジャンルの幅が極めて限定的となる。
VTuberはファンの潜在的な属性と、挑戦できるジャンルが限られるという2つの面から、裾野を広げられないという根本的な問題を抱えている。
開拓者だったANYCOLORは早い段階でそれに気づいていた。「NIJISANJI EN」を立ち上げて海外展開を急ぎ、物理的に顧客開拓エリアを広げようとしていた。
しかし、人気VTuberだったセレン龍月(Selen Tatsuki)の炎上と契約の解除、社長自ら謝罪に追い込まれたことでその勢いが失速。海外攻略は中断となった。
海外VTuberをマネジメントしきれなかったことが露呈したこの出来事は、ANYCOLORの転換点であり、最大の失敗だったと言えるだろう。
売れっ子VTuberの離反に悩まされるカバー
「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社も状況は厳しい。
2024年4-6月の売上高は前年同期間比24.8%増の64億1600万円だったが、営業利益は同6.8%減の8億3400万円だった。増収、営業減益である。
上半期の業績予想に対する進捗率は、売上高が44.5%で営業利益が34.7%だった。特に利益面での進捗が遅れている。
営業利益率が17.4%から13.0%に下がった主な要因は人件費だ。カバーは2024年4-6月の人件費が8億9400万円で、前年同期間の1.4倍に膨らんでいる。
人材への投資は成長戦略に盛り込まれており、計画的なものだが、これほどの減益となったのは、予想よりも売上が伸びていないためではないのだろうか。
今年、VTuberファンに衝撃を与えたのが、「ホロライブ」に所属していた湊あくあの卒業だ。8月28日に活動を終了した。会社との方向性の違いが理由だという。
湊あくあはチャンネル登録者数が200万を超えた超売れっ子である。兎田ぺこらの260万、星街すいせいの240万に匹敵する数だった。
湊あくあは、SNS上で転生の噂が絶えない。転生とは、“中の人”がキャラクターや活動拠点を変えて活動を再開することだ。
カバーはVTuberに付随するIPそのものを保有している。しかし、本人の活動を制限できるのかは微妙なところだ。
本人に同様の活動を行なうことを禁止する競業避止義務契約というものがあるが、数か月から1年ほどで効力を失うケースも多い。
この出来事で思い出されるのが、2020年に起こったYouTuber事務所UUUMから大量の離反者が出たことだ。
離反者からは、「マネジメント料20%を会社に取られることに対してメリットがない」というビジネスモデルの根幹を揺るがすコメントが溢れかえった。
人気YouTuberの大量離反に加え、ショート動画の台頭で広告収入が落ち込んだUUUMは、タイアップ商品の販売に注力。
逆にそれが不良在庫となって評価損を計上し、業績は急悪化した。今も回復しきっていない。VTuber事務所も似た道を辿っているように見えてならない。
取材・文/不破 聡