熱狂的なファンを持つ「ホロライブ」とライト層を開拓した「にじさんじ」
ここで改めてANYCOLORという会社が辿った道を振り返りたい。
「にじさんじ」は、最大のライバルである「ホロライブプロダクション」の弱点を克服するようにして成長したVTuber事務所だ。
「ホロライブ」は、兎田ぺこらや宝鐘マリン、星街すいせいなどに代表される、女性VTuberが主体となっている。当然、ファンは男性が大半を占める。
「ホロライブ」は熱狂的なファンを多数抱えており、それが喜ばしいことであるのは確かだ。一方、ファンが固着化しているのも事実。
大型イベントや受注生産グッズの販売など、推し活に資金を惜しまない人々を満足させ続ける仕掛けを作らなければならない。すなわちそれは、利益率を高めづらい弱点でもあるのだ。
その対極にある「にじさんじ」は、VTuberのライト層を開拓して成長した。それはファンの属性の変化によく表れている。
2022年4月末時点のANYCOLOR IDは、60%が男性だった。しかし、2023年4月末時点では、女性が65%となっている。
2021年に人気男性VTuberユニット「ROF-MAO(ロフマオ)」を結成するなど、ANYCOLORは女性ファンの開拓を戦略的に進めたのだ。
VTuberのライト層は、アクリルスタンドやアクリルパネル、デジタルボイスなど、手軽に手に入るものを好む傾向がある。
ファンは推し活に多額の資金を必要とせず、運営側は原価率の低い商品をバラ撒けるために利益率が高い。両者にとってメリットの際立つ構図が成り立っていた。
つまり、ANYCOLORの急成長ぶりと高収益体質は、焼畑農業のように草地を開墾し続けることができるかどうかにかかっていたというわけだが、そのビジネスモデルが限界に達しているように受け取れたのが、決算での釣井CFOの以下のコメントだ。
“足元では、ぬいぐるみ系商材の売上が非常に高い一方で、従前から我々が定番商品としているアクリルスタンドなどの商材は売上がやや落ち着いています”
売れる商材が変化しているため、ファンの固着化が進んでいると受け取ることができる。
アクリルスタンドは原価が安く製造期間も短いため、提供側にとっては都合のいい商品だ。
しかし、製造工程が複雑なぬいぐるみは納期や数量のコントロールがしづらくなる。不良在庫を積み増せば、評価損というANYCOLORの業績が急悪化する事態も招きかねない。