「相棒はイグアナ――異色の婚活物語で描きたかったこと」『イグアナの花園』上畠菜緒インタビュー_1
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イグアナの花園
著者:上畠 菜緒
定価:2,090円(10%税込)
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純文学かエンタメか、議論を呼んだ「しゃもぬまの島」で小説すばる新人賞を受賞し、デビューした上畠菜緒さん。
受賞後第一作となる『イグアナの花園』は、動物とは心を通わせ合うのに人間社会には馴染めないそのが、婚活を通して成長していく異色のストーリー。
二年にわたる執筆期間に、自身の結婚観とも向き合ったという上畠さん。
今作を通して、何を見つめ、何を得たか、たっぷりとお聞きしました。

構成/清 繭子 撮影/江原隆司

「しゃもぬま」の次は「イグアナ」

――二〇一九年に「しゃもぬまの島」で小説すばる新人賞を受賞し、今回の『イグアナの花園』が二作目となる上畠さん。受賞作は初めて応募した作品だったそうですね。天国に連れて行ってくれる不思議な生き物「しゃもぬま」を取り巻く哲学的なお話で、これが初応募作とは驚きでした。小説はいつから書き始めましたか。

上畠
 大学で総合文芸部という部活に入ってからなので、十八、九歳からです。それまでは読むばっかりだったのですが、部活のみんなが書いているのに触発されて。先輩も入部の時には「読むだけでいいよ」と言っていたのに、書き方講座を開いたりして、書かせようとしてくるんです(笑)。
 最初に書いたのは、ホラーめいたお話でした。幼稚園児くらいの女の子がアパートの裏で生きたゴミ袋と出会って、ご飯をあげたりするっていう……。

――『しゃもぬまの島』のファンタジーにも通じる、不思議なお話ですね。読んでいるのと実際書いてみるのとでは違いましたか。

上畠
 大学では言語文化学科に入り、現代文の小説を読んで、構造やモチーフの意味を読み解いて論文にする、という勉強をしていたんです。だから自分で書く時もそれらを意識したのですが、全然うまくいかなくて。でも、書き終わった後に読み返すと、「これってこのために書いてたのか」と後から構造に気づいたり、無意識に張っていた伏線に気づいたりするんです。今まで研究してきた小説も実はみんなそうだったのかな、と。書くことの面白さに目覚めました。

――今作もとてもユニークなお話ですね。主人公・美苑は幼い時から動物の声が聴こえ、やがてイグアナのソノと心を通わせ、果ては婚活の相談をする仲に。「イグアナ」と「婚活」という驚きの掛け合わせですが、着想はどこから?

上畠
 まず、「婚活」というお題があったんです。はじめは中編の予定だったのですが、「結婚とは」「家族とは」と考えているうちに長編になり、完成まで二年もかかってしまいました。
 「結婚とは何か」と考えた時、小学校の社会の教科書に「家族は社会の最小単位」と書いてあって、「じゃあ独り身は社会に属してないってこと?」とショックを受けたことを思い出しました。
 私は、社会って同じ土俵に属することだと思うんです。戦うにしろ助け合うにしろ、何かしら影響し合う範囲のこと。それでいえば、独り身も働いて周りに還元したり、誰かが働いた恩恵を受けたりするので、少なくとも社会人は社会に属していると言えそうです。
 じゃあ、いつから社会に属し始めたかを考えると、生まれた時点まで遡りました。子どもは親がいないと生まれてこないから、生まれた時点でもう「親子」という社会に属している。子どもにとって親との関係は社会の、そして家族の最小単位なんだ、と。人は成長するにつれ、親子という小さな社会から自立し、大きな人間社会に出ていく……。そこから「うまく社会に属せない人間が、婚活という手段を経て人間社会に属し直す」という物語を思いつきました。

「相棒はイグアナ――異色の婚活物語で描きたかったこと」『イグアナの花園』上畠菜緒インタビュー_3