「1週間ほど前から急に部屋に引きこもって食事にも来なかった」
小材容疑者が妄想に駆られていた可能性があるが、その原因も施設長には心当たりがあったようだ。
「すべてが本当のことかはわからないけど、小材本人が言うには地元出身で母親はだいぶ前に亡くなって、父親と弟の3人暮らしだったらしい。初めてウチにきたのは19歳の頃だからちょうど10年前だな。
小材は15歳の頃から父親にDVをされていたと言っていた。それでウチに避難してきたんだけど、本人は『弟を守らないと』と2、3ヶ月で施設を出て建築系の会社の経営を始めたんだ。その当時は結構景気はよかったみたいだよ」
それから10年間、小材容疑者からは何の音沙汰もなかったという。ところが…
「今年の6月28日、ヤツから突然『戻りたい』と電話がかかってきた。初犯なのか何回捕まったとかは聞いてないけど、覚せい剤絡みの事件で逮捕されて執行猶予を持っているという話をしていた。弟のことも気になったから聞いてみると『父親から逃がすことができた』と言うから安心したし、本人もここで仕事を見つけて出直そうって矢先に今回の事件を起こしてしまった。
ここに来て最初の1ヶ月は穏やかに生活していたんだけど、事件の1週間ほど前から急に部屋に引きこもっちゃってさ。僕が様子を見に行くと『大丈夫です。色々考え込んでしまって』みたいなことを言うんで心配していた。普段は生活しているみんなで飯を食うんだけど、飯の時間にも降りて来なくなっていたんだ。8月中にはここを出て自立するということで、アパート探しもしていたんだけどな」
一方的に被害に遭い、命を落としてしまったAさんはどんな人だったのだろう。
「普通に話はできるし、普段は1人で出かけて遊びに行くことなんかもよくしていた。小材と2人で遊びに出ていくこともあったんだよ。Aさんは天涯孤独ではないんだけど、ここに来てから5年の間、家族が訪ねてきたことはなかったな。さっきも言ったけど、この子は人を殴ったりとかそういうことは絶対にできない、今回も殴られれば殴られれっぱなしだった。小材の方が一方的にやってしまったことだと思うよ」
都会の片隅で肩を寄せ合って生きていたはずの孤独な者同士が生死を分つことになったのはなぜなのか。突き詰めるほど虚しさが募る盆の出来事だった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班