〝思い出消費〞で大成功した「トップガン」

今どきの高齢者全体に通用するマーケティングのポイントについて言及したい。

まず、現時点でも有望であり、将来的にはよりマーケットが大きくなると予想される領域がある。それが、「ノスタルジー消費(思い出消費)」だ。

シニア世代に共通して言えるのは、全く新しいものにチャレンジしたり、受け入れたりすることは、少しハードルが高いということだ。その代わりに、「見てみたい」「やってみたい」と抵抗感なく飛びつきやすいのが、若かりし頃に一度経験して楽しんだ記憶があり、それがリメークや続編となって再登場してくる商品やサービスだ。

「懐かしい」「あの頃、楽しんだ熱狂をもう一度味わいたい」と、ノスタルジーを感じて、それによって消費の歯車が回り出す。シニアヒットの源泉は、彼ら、彼女らの思い出の中に眠っており、それらをいかに目覚めさせるかが鍵となる。

特に、分かりやすい形で思い出消費によって爆発的ヒットを生むのが映画だ。団塊の世代が30代中盤から後半、その次のしらけ世代が20代中盤から30代前半、そしてシニア予備軍である新人類世代が20代前半、バブル世代が高校生、大学生のとき、日本で大ヒットした1986年上映の米国映画『トップガン』。

2022年5月、続編となる『トップガン マーヴェリック』が上映されると、それらの世代の思い出消費を喚起し、主演のトム・クルーズの日本における上映映画としては過去最高の興行収入137億円超をたたき出した。

写真/shutterstock
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映画館には懐かしさに背中を押された多くのシニア、シニア予備軍が足を運び、感動して涙を流す光景も見られた。

感涙する姿は、若者からすると違和感があるかもしれないが、感情に「思い出」が乗る分だけ、感動も2倍、3倍になり、「もう一度見たい」「何度でも見たい」というリピートにもつながりやすい。これが思い出消費の強みだ。

実は、こうした思い出消費を狙った映画は、近年、米ハリウッドではヒットメイクを生む常とう手段だ。2018年、世界的人気ロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた伝記ドラマ『ボヘミアン・ラプソディ』。

2019年、グラミー賞5度受賞の世界的ミュージシャン、エルトン・ジョンの自伝的映画『ロケットマン』。2022年、エルヴィス・プレスリーの生涯を描いた伝記映画『エルヴィス』など枚挙にいとまがない。

日本だけでなく、戦後は世界でベビーブームによって多くの子供が生まれ、現在、それらが年齢を重ね、先進国はどこも高齢者が〝固まり〞となって存在する。思い出消費を仕掛けることによって、パイ(母数)が大きい分、爆発的なヒットも生みやすくなっている。

もちろん、思い出消費が有効なのは映画だけではない。若者の間では、数年前から「昭和レトロブーム」と称し、一昔前の喫茶店に行ってスマホで撮った写真をSNSに投稿する行為がはやっている。

つまり、若者は自分たちが〝体験したことがない昭和〞を求めて消費している。一方、高齢者は、自分たちが〝体験した昭和〞を求めて、思い出消費に走る傾向がある。

そうした消費行動が期待できる今、例えば、旅行ツアーであれば、昭和の時代に若者が足しげく通った思い出の場所を訪ねる「ノスタルジー巡礼」といった企画が心に刺さるかもしれない。

あるいは、昭和グルメシリーズ、昭和グルメフェアなど、昔はやったメニューやスイーツを商品化、メニュー化して提供することも考えられる。令和の時代、団塊の世代、団塊ジュニア世代が高齢者となり、国内の高齢者は過去最大のボリュームとなって巨大市場を形成する。今後、思い出消費は高齢者攻略のキーワードとなる。