「ウォー」や「オー」といった熱狂する声ばかり
石丸候補の街頭活動は、数は多いが毎回15分が基本。選挙戦の街頭活動、特に多くの聴衆が集まる街頭活動の場合は、関係地方議員や団体関係者らの短い演説から始まって、大物応援弁士らの応援演説、そして最後に候補者本人からの訴えというのが基本的な構成であり、ざっと1時間はかかる。
その間ずっと聴いているのは動員された党員や関係者、または熱い支持者、取材するメディア関係者、そして私のように情勢把握をしたい人ぐらいである。
もちろん大物や有名人が来るのであれば、それを待つ聴衆が溢れかえるということもあるが、聴衆もゲンキンなもので、その大物や有名人の演説が終わればパラパラと帰ってしまう。
特に今の若者などはそんな演説を長々聴いている時間もないし忍耐力もない。そうなると、短い演説を何回もやった方がそうした有権者には訴求できる。
では何を訴えるのか?
実際、通常の街頭演説でも候補者本人がしゃべる時間は15分ほどであるから、その時間で政策や主義主張を訴えることは十分可能である。しかし、街頭演説は前座から入ってトリに至るように、起承転結というか盛り上がる流れを作っている。
15分間候補者本人が演説して終わりでは、動員なしの駅頭や交差点等での演説と同じであるから、盛り上げるのはなかなか難しい。
しかし、筆者が実際に見た石丸候補の街頭演説は非常に盛り上がっていた。
では、その内容はと言えば、ある街頭演説では、自己紹介から入り、時折まるで芸能人かミュージシャンかのように右手を高く突き上げて聴衆の歓声を誘い、自分は銀行でアナリストをやっていた、だから経済の専門家である、経済の専門家が都知事になれば東京の経済は活性化する、自分はYouTubeを使って安芸高田市議会への注目を集めたから東京都議会でも同じことをやる、この場に来ている聴衆は皆仲間である、選挙を最後まで楽しみ切ろう…といった話。
端的に言って政策の話は全くなかったに等しいし、東京都知事になって何をやりたいのか、今、東京都はどのような課題を抱えていてそれをどのように解決していこうと考えているのかといった、通常の街頭演説であればして当然の内容は聞こえてはこなかった。
これでどうやったら支持が集まるのだろうか?筆者が気づいたのは、聴衆の熱狂であった。政策を訴える街頭演説であれば、「そうだ!」とか「そのとおり!」といった声援が聞こえてくるが、政策的主張がないので「こうした声」が聞こえてくるわけもなく、「ウォー」や「オー」といった熱狂する声ばかり。都知事選ということを考えなければ、まさに芸能人かミュージシャンのライヴにでも来たかのようであった。