2001年6月25日、欧州評議会(人権、民主主義、法の支配の分野で国際社会の基準策定を主導する汎欧州の国際機関)は、オブザーバー国である日本とアメリカに対し、速やかに死刑執行を停止し、死刑廃止に必要な段階的措置を取ることなどを求める「欧州評議会のオブザーバー国における死刑廃止」という決議を行いました。
この決議は03年1月1日までに死刑を巡る状況の改善が見られなければオブザーバーとしての資格を剥奪することも辞さないという、かなり強硬な一文が付いたものだったので、欧州評議会の本部のある仏ストラスブールの総領事も重要な外交のチャンネルが失われては困ると考えたのでしょう。
外務省の本省に対し、全部で8ページから成る文書を送付しています。
この文書で注目すべき点は、先の決議に対する「当面の対処振り」として、「対話の継続の重要性」や「死刑囚の処遇改善」などに加え、「死刑執行停止」という意見具申がなされていること。
外交官から本省に対して「ヨーロッパとの外交において、日本が死刑を続けているのはハンディキャップになる。とりあえず執行だけでも止めてくれ」と訴えたわけですから、死刑の継続がヨーロッパでの外交活動にどれだけ影響を与えるのかが分かります。
とはいえ、これによって法務省が死刑執行を止めるなどの変更を行うには至りませんでした。ただ、日本の考え方や、現在行っている死刑が残虐なものではないというような説明をもっと丁寧にやった方がよいということは、法務省と外務省との間でも意見の一致を見たようです。
ヨーロッパ諸国は死刑廃止に力を入れてきましたが、その主な理由は「人権上大きな問題があるから」というものです。それに対して、イスラム教の国では戒律上の理由で死刑制度を残していることが多い。
一方、アメリカでは州によって死刑を廃止しているところと、現在も執行しているところに分かれており、これは、民主党が強い州と共和党が強い州の分布図とほぼ重なっています。
アメリカが国全体として死刑廃止に舵を切っていないのは、共和党の支持層に、死刑による犯罪抑止効果を重視する人が多いからです。
アメリカでは2020年に共和党から民主党への政権交代が行われましたが、「死刑は違憲である」という判決が出る可能性は当分ないでしょう。
なぜなら、同年にリベラル派の重鎮だった連邦最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグが亡くなり、トランプ政権末期に保守派のエイミー・コニー・バレットが後任とされたことで、連邦最高裁の構成は保守派優位がより進んだからです。
アメリカの死刑支持者が考える犯罪抑止効果というのは、「凶悪な犯罪者を死刑に処すことで次の犯罪を止められる」というもの。
ただ、抑止力については学問的に実証されておらず、死刑を廃止した国や地域で、それを理由に凶悪犯罪が増えたというデータはありません。そもそも、刑罰の重さよりも、検挙されやすいことが犯罪の抑止に影響することが、犯罪学の知見としてほぼ確立しています。