宗教も政治も弱者男性を助けてくれない

「弱者支援」といえば、どういった団体が行っているか。そこでまず挙げられるのが宗教団体・政治団体であろう。

近年の日本では、宗教を信仰する人がどんどん減っている。NHK放送文化研究所が国際比較調査グループ(ISSP)の一員として行った「宗教」に関する調査結果を見ると1998年、2008年、2018年と、年々信仰心がない人が増加していることがわかる。

信仰心の有無「まったくない」人の割合
信仰心の有無「まったくない」人の割合

特に男性は女性より信仰心がなく、2018年の調査において39歳以下の男性は42%が信仰心について「まったくない」と答えている。2024年現在、日本の37〜47歳は多感な時期にオウム真理教事件が起きており、その影響もあるといえるだろう。

このような背景もあり、宗教団体もボランティア活動を大々的にアピールすることはない。さらに、ある宗教団体に関するリサーチでは、信者と非信者のボランティア活動への熱意について、多少信者のほうが多く参加する傾向はあるものの、それほど大きな差はなかったとされる。

実際に信仰する人も減っており、さらに信者側も、弱者支援に強い関心はない。そのため、宗教団体から弱者男性への支援はあまり期待できないといえる。

続いて、政治団体である。保守層が想定する男性像とは「女性と子どもを守り、家庭の大黒柱として前線で戦う武士」だ。そのため、弱者男性はすべての男性の中でも二流の扱いを受けることになる。

現在、右派や愛国者を自称する人間のなかには「ネット右翼」も少なからずいるが、東京大学社会科学研究所の永吉希久子准教授の調査によると、ネット右翼はそうでない者より「正社員や経営者・年収600万円以上」である割合がわずかながら高い。

そして、割合的に正規職が多く、無職も少ない。つまり、ネット右翼は強者の思想ともいえる。

ネット右翼の雇用形態・世帯年収
ネット右翼の雇用形態・世帯年収
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では、左派はどうだろうか。そもそもリベラルとは「自由」から派生した言葉であり、個人の自由を最大限尊重する立場を持つ。そうなると、独身男性のことも「自由な意志の結果、独身を選んだ」として、自業自得扱いを受けることが多いのである。

大場博幸氏による『非モテ独身男性をめぐる言説史とその社会的包摂』では、リベラルは独身男性を「相互にケアするように促し、それを社会的に支援する」とのみ記されている。

しかし、独身男性の多くは貧困等を理由にした「不本意未婚」の状態に置かれており、自由という名の放置ではどうにもならない。リベラルから見ても、独身男性は「保護、福祉」の対象というよりは、自由な競争の結果、敗北することを選んだ者に見えがちなのである。

ここまでをまとめると、弱者男性は女性と比較して過酷な労働下に置かれやすく、過労死に陥ってしまう数も圧倒的に多い。

さらに、貧困から逃れるために体を売ろうとしても、結局はセックスワークで稼げない女性と変わらない、月々の生活保護費と大差ない金額しか稼ぐこともできない。そして親族などの影響で一度貧困になれば、負の連鎖から抜け出すことはできず、親の介護でも離職できずにフラフラになりながら面倒を見ざるを得ない。

お金はないながらも心優しい弱者男性をカモにするのは、噓をついて詐欺を働く「頂き女子」たち。宗教や政治も弱者男性を根本的に助けてくれるものではなく、弱者男性の行き場はないのである。


図/書籍『弱者男性1500万人時代』より
写真/Shutterstock

弱者男性1500万人時代(扶桑社新書)
トイアンナ
弱者男性1500万人時代(扶桑社新書)
2024/4/24
1,012円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4594097417

「弱者男性」の75%は自分を責めている。“真の弱者”は訴えることすらできない――。
「40代後半でカネもない独身のおっさんに人権なんてないんです。そこにいるだけで
怪しくて、やばいんです」(本書インタビューより)

1 弱者男性とは誰のことか
日本人の8人に1人は弱者男性/弱者と自認する男性は1600万人/キモくて金のないおっさん/「弱者男性」の歴史的背景/国内統計データから見る未婚男性の不幸度/諸外国との比較/日本で男に生まれたら不幸、さらに未婚はもっと不幸/諸外国でもシングル差別はある/就職氷河期が破壊した男性の結婚願望/透明化される被害経験/支援団体が定める「弱者男性」の定義

2 男性の弱さ
男性は死にやすい/男性は病院へ行くのを渋り、セルフネグレクトへ/男性は3K労働に就きやすい/男性は戦場で兵士になりやすい/男性は女性よりも殺されやすい/男性のASD・ADHD・LDのなりやすさ/男性は遺族年金で差別されやすい

3 弱者男性の声
「男たるもの」に苦しめられ、双極性障害、自己破産へ/一見エリートでも、家族起因で弱者側に追い込まれる男性/年収1000万円のハイスペでも男性が「生きづらい」理由/妻から皿を投げつけられ、涙が止まらなくなった/ごくわずかな弱者男性だけが、女性差別をする/弱さを認めてもいいと知って、救われた

4 弱者男性の分類
SPA!でのアンケートをもとに弱者男性を分類/なぜ弱者男性は自分を責めるのか/弱者性の主なカテゴリー

5 弱者男性になってしまう
弱者性を生む「家族・地域・制度」からの縁切り/コミュニケーション弱者の男性は迫害されやすい/男性は女性と比べて「加害者」になりやすく、孤立しやすい/弱者男性を救いたいと思う者がいない/社会で失敗したときに復活しづらい/SNSで生まれた「高み」の虚像が生む「弱者という実感」

6 弱者と認めてもらえない
女性・子どもという「理想的弱者」の存在/「かわいそうランキング」の最下位/収入という「目に見えすぎる上下関係」/弱さを語ることは「男らしくない」/自分でも自分を弱者と認めたくない/軽んじられる男性の被害

7 弱者から抜け出せない
ガラスの天井に阻まれる女性、ガラスの地下室に落ちる男性/日本人男性の異常な労働時間、労働条件/体を売っても貧困から抜け出せない/階級の固定化:貧困家庭が貧困弱者男性を生む/新卒一括採用で失敗したら復活できない/独身男性が「介護する息子」になる/男性には「玉の輿」のチャンスがない/頂き女子のカモにされる?/宗教も政治も弱者男性を助けてくれない

8 弱者男性とミソジニー
弱者男性=ミソジニストであるという誤解/「それもこれも女が悪い」神話/女性嫌悪集団「インセル」/女性の社会進出と弱者男性に関係はあるか/フェミニズムと弱者男性の食い合わせの悪さ/弱者男性の現状は、かつての女性の姿と重なる

9 弱者男性に救いはあるか
サバルタンは語れない(本当の弱者は訴えることができない)/今ある自助グループの限界/3つの縁のうち「行政」をつなぐ/支援の原則/「弱者です、助けてください」と言いやすい社会づくり/助けを求めるコミュニケーションの訓練/自分が執着する相手との会話/支援者の支援:バーンアウト対策/最後に、弱者男性が訴えた「本当にほしい支援」

巻末付録・推計:日本国内にいる弱者男性の数

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