看板メニューの味が変わっていく

ラーメン店としての常識を変え続けるいっぽう、ラーメンの味そのものを更新し続けてきたことも大きな特徴だ。実は一風堂はラーメンの味を毎年少しずつ変化させており、さらに10年を目安に大きな変化も加えている。※1

創業30周年を迎えた2015年には、それまで同じ麺を使用していたアッサリ味の「白丸」とコクのある「赤丸」で、それぞれのスープにより適した細さ・切り方・形状の異なる麺の採用に踏み切った。

さらに、麺の長さを通常よりもわずかに短くすることで食べやすさを追及したり、チャーシューに使用する肉の種類を増やしたり、スープの元ダレの製法をリニューアルしたりと、看板ラーメンに大きな変化を加えたのだ。

ちなみに2023年秋にも、麺・スープ・チャーシューなどを大幅に更新している。※2

こんなにも味を変え続けてしまうのは、「あのラーメンが食べたい」と思う消費者にとってマイナスに働いてしまわないだろうか?

先に答えを言うとNOである。

なぜなら、基本的にはラーメン店の既存客は減っていくものだからだ。

世界に274店舗、とんこつラーメンの一風堂が世界中で顧客を魅了し続ける“期待不一致モデル”の戦略とは_2

私たち消費者には、「期待通り」を求める気持ちと、「うれしい驚き」を求める気持ちがある。「期待通り」を求める気持ちと「うれしい驚き」を求める気持ち……両者は相反するものでありながら、間違いなく消費者の心に共存している本音であり、多くの人が時々で使い分けている。

「期待通り」を求める気持に応えるうえでは、ラーメンの味を変える必要はない。

しかし、その裏返しで、変わらない味に「飽きた」と感じて離れていく人は必ず出てきてしまう。

「うれしい驚き」を求める気持ちは、前回とは異なる驚き、変化や進化、感動を求めるものである。こちらの気持ちに応えるには、ラーメンの味を変えていく必要がある。
ただし、変わっていく味に「裏切られた」と感じて離れていく人も出てくるだろう。
だがマーケティングの観点から考えると、消費者を真の意味で満足させ続けるためには、後者の「うれしい驚き」を追求する選択の方ほうが適切といえるのだ。