「メインテーマ=サックス」が定着した第3作『世紀末の魔術師』
記念すべき劇場版アニメ第1作『時計じかけの摩天楼』では、オリジナル(テレビアニメ版)ではサックスが担当していたメロディーをトランペットにし、ピアノが哀感漂う合いの手を入れるアレンジが施された。
大きな変化はイントロに見られる。オリジナルでは「ファ・ソ・ラ♭・ファ」の繰り返しだったところ、「ファ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド」と駆け上がるメロディーで、さらに動きが増した。いずれにしても、管楽器がリードする大人な雰囲気は、これぞ『コナン』だなあという感じで安定している。
第2作の『14番目の標的(ターゲット)』においては、〝コナン読み〟が初めて採用された。「標的」と書いて「ターゲット」と読んだりする、アレだ。
この作品では、イントロが「ド・シ♭・ラ♭・ソ・ファ」と下降するパターンになり、コピーがしやすくなったのは画期的だ(たとえば口笛なんかでも吹きやすい)。のちに定着していくのだが、なぜか本作のバージョンだけ1小節少なくなっている。「音飛びしたのか?」とあせるので実はちょっと苦手だが、イントロだけで敬遠していたら、マジでもったいない名演なのだ!
そもそも疾走感を盛り立てるパーカッションがカッコいいし、1コーラス目のメロディー担当はなんとエレキギター。どうもカッコいいなと思っていたら、日本音楽界を代表するギタリスト、高中正義氏の演奏だった。結果的に、曲の終盤でAメロ’の音域が「ファ・ラ♭・ソ・ラ♭・シ♭・ド」と上限を更新するという金字塔を打ち立てることになった。ここは激アツだ。
第3作『世紀末の魔術師』では、アルトサックスが主役。しかも、イントロ(前作と同じ下降パターン)からテンションを効かせてアドリブを奏でるはりきりっぷり。「『コナン』のメインテーマ=サックス」のイメージはオリジナルとこのバージョンで定着したか。
この頃のアレンジは、奏者と担当を決めて、わいわい気楽にやったセッションという感じが強い。劇場版がこんなに長く続くとは、まだ想定していなかったのではないだろうか。歴史探偵(?)として気になるのは「制作陣はいつ、新作のたびに新アレンジを加えるという方向で覚悟を決めたか」だ。
続く第4作『瞳の中の暗殺者』では、原点回帰というか、オリジナルとほとんど変わらないアレンジだった。個人的には、ここが制作陣にとってのターニングポイントだったとにらんでいる。腹をくくって、〝新作のたびに新アレンジ〟という前人未踏の野へと乗り出すか。それとも流用や、別のメインテーマ作曲路線へと方向転換するか――。