アレンジの幅を広げた第5作『天国へのカウントダウン』
はたして、第5作『天国へのカウントダウン』のアレンジは、覚悟を決めて果敢に踏み出したことを強烈に印象づける新機軸となった。大きな変化だけで3つもあるのだ。
まず、イントロ前の〝プレ・イントロ〟が初めて加わった。それまでは、いきなりイントロに入るか、パーカッションが短く前置きする程度だったが、本作ではコントラバスがズドドンッ、ズドドンッと「シ♮・ド・ド・シ♮・ド・ド」というリズムを刻んでイントロを用意する、2小節もの導入部があるのだ。
そういえば、『太陽にほえろ!』にも、「ド・ミ♭・ド・ミ♮・ド・ミ♭・ド・ミ♮」という2小節のプレ・イントロがあったっけ。先祖返りというか、兄弟のきずなというか、いい話だ。
続くイントロパターンも新しく、ストリングスが16分音符で下降・上昇する速いパッセージになった。ファン界隈では「天国アレンジ」と呼ばれているらしいこのパターンは、単に新しいだけでなく、クラシカルな雰囲気を醸し出す頼もしい手段となり、その後も重宝されてゆく。イントロに呼応して、全体的にストリングスやフルートを多用したアレンジになるのも聞きどころだ。
ざっくりいって、ポップスやジャズに寄せるなら第2作と第3作の下降パターン、クラシカルにいくなら第5作のパターンと、選択肢が増えたカタチになる。
そして! これまではイントロ→Aメロ→Bメロ→Aメロ’→間奏と来て、ふたたびAメロから楽器を変えてリピートする(2コーラス目に入る)のが通例だったが、第5作では初めて、間奏後のAメロ部分はコード進行だけそのままに、アドリブで弾くパターンになった。その結果、アドリブが終わってBメロが出てきたときの〝再会〟感がいっそうカッコよくなる。
プレ・イントロ、クラシカルなイントロパターン、2コーラス目のアドリブ、と3つの要素が加わったことで、その後のアレンジの幅が広がった。この変化は、先のことも見すえての決断だったように思える。「この曲とは長い付き合いになりそうだ」と腹をくくるエポックになったと推理するゆえんである。
実際、ここからしばらくは第5作までに出そろった各要素をいじったり組み合わせたりしてアレンジする安定期に入る。たとえば、第6作『ベイカー街(ストリート)の亡霊』はホームズの地元イギリス・ロンドンが舞台になるので、前作のクラシカルなアレンジが活きてくる。
次の第7作『迷宮の十字路(クロスロード)』は大野克夫氏の故郷・京都が舞台。プレ・イントロを新たに作り、しかも鼓の「ポンポン」という音を加えるお茶目なアレンジとなった。大野氏の父親は玄人はだしの尺八奏者だったそうで、ここでの和楽器使用には家族への想いも込められているのかもしれない。