低血圧

血圧というと高血圧ばかりに注意が向けられていますが、低いほう、つまり「低血圧」はどうなっているのでしょう。

健診における低血圧の基準値はありません。日本高血圧学会の基準でも、上120未満、下80未満を満たせば、どれだけ低くても「正常血圧」と判定されてしまいます。とはいえ上が80以下になったら、お医者さんもかなり慌てると思います。心臓が止まりかけているかもしれないので。

表8は日本高血圧学会が決めた血圧の基準値です。「診察室血圧」は病院で計る血圧、「家庭血圧」は家で計る血圧です。大抵のひとは、病院では少し緊張するため、上の血圧が10〜20、ひとによっては30以上も高くなります。

そのため最近は、家庭血圧のほうが重視されるようになってきています。血圧が気になるひとは、家庭用血圧計を買って、家で毎日計って記録をつけておくべきです。それを医者に持っていって、相談すればいいでしょう。

それはともかく、この表のなかにも「低血圧」という言葉は一切出てきません。また日本「高血圧」学会は存在しますが、日本「低血圧」学会はありません。つまり日本では、低血圧は病気として扱われていないということです。

高血圧の新常識「かつては『上180以上』が高血圧だったのに…」老年期になると、むしろ「低血圧が認知症のリスクを高める」は本当か?_5

ただし世界保健機関(WHO)の定義があります。上100以下、下60以下の状態が継続しているものを、低血圧としています。日本でもこれに準じて診断している医師が大勢いるので、健診の最後に行われる「内科診察(医師による診察)」で「低血圧」と判断され、その旨が健診結果に記載されることがあります。

低血圧の主な症状は、めまい、立ちくらみ、朝起きられない、などです。しかし命にかかわることはなく、しかも動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞などのリスクが低いこともあって、「低血圧は治療の必要がない」とする医師が少なくありません。また治療といっても、食事や生活習慣の改善指導が中心になります。

低血圧に悩むひとがどのくらいいるかは、よく分かっていませんが、人口の約1〜2パーセントとする説があります。人数で言えば、125万人から250万人といったところです。また男性よりも女性のほうが多く、男女比は1:2とされています。

高血圧の新常識「かつては『上180以上』が高血圧だったのに…」老年期になると、むしろ「低血圧が認知症のリスクを高める」は本当か?_6
すべての画像を見る

そんな低血圧が「認知症の発症と関係しているらしい」という研究が、最近増えてきています。中年期では高血圧が認知症のリスク因子とされており、血圧を下げることで、将来の認知症をある程度予防できると考えられています。ところが老年期になると、むしろ低血圧が認知症のリスクを高めるらしい、ということが分かり始めてきたのです。

低血圧のひとは、血液が全身に十分に回りにくいですし、とりわけ脳はからだの最上部にあるため、血液不足になりやすいのです。しかも高齢になると、ほとんどのひとが動脈硬化になります。血管が硬くなるため、血圧を上げなければ、ますます血流が減ってしまいます。

つまり低血圧が続くと、血の巡りが悪くなって、脳細胞が酸素不足や栄養不足になるリスクが上がってしまうのです。そのことが認知症の引き金になるらしい、と考えられています。実際、高血圧の高齢者に降圧剤(血圧を下げる薬)を処方したら、血圧が下がり過ぎて、かえって認知能力が低下した、という話をよく耳にします。
 

結局、血圧が低すぎるのもよくないということでしょう。年齢とともに血圧が上がるのは、むしろ自然な現象と捉えるべきです。中高年は130〜140ぐらいあったほうが、頭も体も健康に暮らせるような気がしますが、どうでしょうか。


図/書籍『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』より
写真/shutterstock

健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目(講談社+α新書)
永田宏
健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目(講談社+α新書)
2024/3/20
990円(税込)
200ページ
ISBN: 978-4065351932
その再検査、本当に必要? 血圧・糖尿・BMI・尿酸値・白血球数・眼底など、項目別に検査結果の正しい見方を教えます。 高血圧の基準値はこうして作られた/赤血球・白血球・血小板数が同時に増えたら/人工透析が嫌なら「e-GFR」に注目/サウナ-と尿酸値の深い関係/空腹時血糖値、本当に注意すべきはいくつからか/クレアチニン異常と筋トレ/胃がん検診はバリウムか、内視鏡か……。 健康診断の結果を受けて、異常を示す「*」マークの数に一喜一憂しているあなた。その数値にどんな意味があるか知っていますか? 基準値を少しでも上回ったら再検査を受けたほうがいい項目もあれば、半数以上の人が引っ掛かるので気にしなくてもいい項目もある。 健康診断の結果の正しい読み方を解説します。 第1章 身体計測:体重・身長・BMI・脂肪 第2章 血圧と心肺機能:血圧・低血圧・心電図検査・胸部レントゲン写真・呼吸器検査 第3章 血算検査:貧血3項目と赤血球恒数・多血・白血球数・血小板数 第4章 糖尿病:空腹時血糖値・HbA1c 第5章 脂質:中性脂肪(TG)・HDL・LDLコレステロール・LDL/HDLの役割とコレステロールの基準値・総コレステロール値とLH比 第6章 肝機能:AST・ALT・γ-GTP・総ビリルビン・HBs抗原検査・HCV抗体検査 第7章 腎機能:尿酸・尿潜血・尿蛋白・クレアチン・eGFR(推算糸球体濾過) 第8章 痛風と関節リウマチ:尿酸値・リウマチ因子(RF) 第9章 視力と聴力:視力検査・眼底検査・聴力検査 第10章 がん検診:健診と検診・大腸がん検診・胃がん検診・ピロリ菌感染とABC検査・肺がん検診・乳がん検診・HBOCと遺伝子検査・子宮がん検診・前立腺がん検診
amazon