スニーカーの転売を助長するサービスも登場していた

さらにスニーカーの価格は「バブル」と言っていいほどにまで高騰していた。スポーツ選手や芸能人、インフルエンサーなど話題性の高い人が履いたものは、数十万円の値段がつくことも珍しくなかった。

そのブームで暗躍していたのが転売ヤーだ。アメリカでは、スニーカーの価格が株式市場のように変動して取引を仲介するプラットフォーム「StockX」というサービスまで誕生している。スニーカーが投機の対象となっていることを証明するものだ。

ナイキは2022年に過剰在庫が積み上がり、危険視されていた。しかし、2023年に卸売店に流してそれを解消することができている。これは流通量が増加したことを示唆するものだ。転売マーケットが形成されるほどの過剰な価格上昇、インフレによる中間層の消費の減退、そして過剰在庫を解消するための流通量の増加。この3つの要素が2023年に重なった結果、スニーカーブームは終焉を迎えたのだろう。

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ナイキは全従業員の2%にあたる1660人の解雇を表明した。減収への備えとして迅速に固定費削減に動いている。アメリカ企業らしい素早い動きだ。アディダスは業績が好調だった2022年に人員拡大に動いた。その後、大規模な人員削減は発表しておらず、増収に向かわなければ収益性は低下する可能性もある。

春を謳歌していたスニーカー市場の冬の訪れは一瞬だった。過剰在庫を抱えて多額の評価損を計上することになれば、大赤字を出す未来も視野に入る。コロナ禍を乗り越えた先にブーム終焉という悪夢が待っていたとは予想だにしなかったはずだ。

取材・文/不破聡