剣の達人が刀を抜かないで勝てるのか?という挑戦
――新境地だと感じるのは、具体的にどういう部分ですか?
完全にボーカルワークです。ボーカルワークが自分の楽曲への関わり方すらも変えてくれた。僕はサムライギタリストなんて言われて、ギターをギャンギャン弾いてきて。今もギターで世界を踊らせるっていう気持ちは変わらない。だけど、そこだけじゃだめだという気持ちもずっとどこかであって。「剣の達人が鞘から刀を抜かないで勝てるのか?」っていうのが、僕のテーマだったんです。僕はアーティスト、フロントマンとしてそれを見つけたかったし、今回のボーカルワークで、その呪縛から解き放たれたかなと思ってます。今回、僕がギターを弾いてない曲や弾いてない場面もたくさんあります。
そうすることで、自分のメッセンジャーとしての尊厳や存在理由が変わったし、より大きくなったと思います。もちろんギターはそこに包括はされているけど、“それだけ”ではなくなった。楽曲を届けるために僕は歌うし、ギターを弾くし、パフォーマンスをする。今、ようやくアーティスト、メッセンジャーとして存在し始めてるのかなと思います。
――このアルバムでは、歌詞も歌唱も含めたストーリーテリングの力が非常に高いですよね。
そうでしょ? 今までは、「腹減った!」「じゃあ、ほら飯、食え!」で終わってたんですよね(笑)。でも実際、がんばれって言われてもがんばれない人のほうが多いから。子育てもそうですけど、「そっち危ないよ、行っちゃダメ」って言うのは簡単なんですよ。でも、それだと成長しない。そっちに行って危険な思いをしたり、怪我したりとすることによって、自分の中で危機意識が生まれる。親として、そのガイドをしてあげるのが僕たちの役目であって。
音楽は子育てだとは言わないけど、やっぱりどこかに啓蒙する部分はあるじゃないですか。逆に言うと聴く人たちのマインドや生き方を変えるすごく大きなパワーがある。聴いたことで経験できる、要するに、少し遠回りできる。僕は今までずっと、直線でゴールに行けって言ってたんです。そうはなくて、どういうプロセスを通るべきなのかを提示する。そのためのワールド(世界)を作ることに着目したんです。
取材・文/川辺美希 撮影/村井香
ジャケット/ヴェルサーチェ ジャパン
〈問い合わせ先〉www.versace.jp
スタイリング/櫻井賢之[casico]