9歳で病を発症。病床で目にした“ヒーロー”の姿

小田が骨肉腫を発症したのは、9歳の時だった。
左足の自由を失ったため、大好きなサッカーは諦めざるをえなかった。その時、彼に新たな夢を与えてくれたのが、車いすテニス界の絶対王者・国枝慎吾。2012年ロンドン・パラリンピックで金メダルに輝く国枝の姿に、病床の少年は魅せられた。

「自分が病気で入院していた時に、YouTubeで観た国枝選手が、本当にかっこよかった」

あの時の感動を、小田は今も瑞々しく語る。国枝にもらったその勇気や希望を、今度は自分が、多くの人たちに与えたいと望むのだろう。
プロになった今、世に伝えたいと望むメッセージを、小田は次のように明確に言葉に置き換える。

「自分が、いわゆる健常者から障碍者になり、いろんな壁だったり、それまでとの違いは感じてきました。しかし、病気になったらスポーツができないかといったら、そうではないと体現したい。
病気やケガとは関係なく、プレーや試合を観てもらいたい。観た人が、車いすテニスやスポーツを始めるきっかけに自分がなれたら、ベストな結果かなと思っています。その意味で、自分が病気になったときと同じくらいの歳の子どもたちに何か感じてもらえたら、自分が選手として、やっていてよかったなと思う瞬間でもあるのかなと思います」。

その決意を実現する旅の大きなステップを、彼はパリで踏み出した。今年5月開幕の全仏オープンでのグランドスラムデビュー。それは描いていた青写真より、幾分早いペースだ。

「子どもたちのヒーロー的な存在に」——。16歳のプロ車いすテニスプレーヤー、小田凱人が「最年少世界1位」にこだわる訳_b