ブラジルタウン大泉に開いたレストランにコロナ直撃

高級感のあるフロアを回って、テーブル席のお客に笑顔でお客に声をかける大柄な紳士。ポルトガル語と日本語を交えて接客しているのは、この店のオーナーである瀬間仲ノルベルトさん(37)。かつて日本の高校野球では甲子園で活躍し、その後中日ドラゴンズに在籍していた元プロ野球選手だ。引退した今は、このレストラン「カミナルア」を営む。朴訥でやわらかな雰囲気が印象的な紳士である。

「いちばん人気のメニューはパステルですね」

「支えてくれた人に背を向けられない」――ブラジルレストランを経営する元プロ野球選手・瀬間仲ノルベルトの波乱万丈人生_a
元プロ野球選手で、いまではレストランオーナーとなった瀬間仲ノルベルトさん。堂々たる体躯は現役時代のまま

と、瀬間仲さんが運んできてくれたのはブラジル風のパイ。さくさくに揚がった生地の中に、牛ひき肉や玉ねぎ、チーズ、卵、オリーブなどが入っているブラジルのソウルフードともいえるスナックだが、「カミナルア」のものはとにかくでっかい。一般的なサイズの5倍はあるんじゃないだろうか。巨漢の瀬間仲さんが持ってもなお大きく映る。

「これを食べにわざわざ遠くから来てくれるお客さんもいるんです」

そしてもうひとつのおすすめ「バイアウン・デ・ドイス」は、米と豆を一緒に、スパイスや肉などと炊き込んだもので、瀬間仲さんのパートナーの故郷、ブラジル北部の郷土料理。これまたボリューミーだ。ほかにもさまざまなブラジル料理が並ぶが、コロナ禍のために店の経営はなかなか厳しい。

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ブラジル北部の郷土料理、豆と米を炊き込んだバイアウン・デ・ドイス(1250円)

とくに「カミナルア」のある群馬県邑楽郡大泉町はコロナ禍の影響が大きい。ここは1990年代から工場労働者として日系南米人の受け入れを始めた町として知られている。それからおよそ30年、ブラジルやペルーからたくさんの日系人がやってきて、製造業を下支えしてきた。しかし、ほとんどはいまも派遣社員であり、その生活は景気に左右されやすい。とりわけ地域の主力産業ともいえるスバルやパナソニックが減産ともなれば、下請けの町工場で働く日系人がまず影響を受ける。

「操業が止まっているところもあると聞きますね」(瀬間仲さん)

解雇されたり、出勤日が減ったり、あるいは残業ができなくなったり。時給いくらで稼いでいる派遣社員の日系人にとって、勤務時間が減るのは大きな痛手だ。だから外食どころではなく、街にたくさんあるブラジルやペルーのレストランはどこもしんどい。それは「カミナルア」も同様なのだが、瀬間仲さんの顔に暗さはあまり見られない。というのも瀬間仲さんはこれまでずっと、波乱万丈の人生を乗り越えてきたからだ。

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ずっとやわらかな表情だったが、大泉町に暮らす日系人たちの境遇に話が及ぶときだけ、厳しい顔つきになった