逃走犯たちとの交流で感じたこと

――その後、週刊誌記者として数年間勤め、ふたたび独立。この間も、取材者・書き手としての個性的な立ち位置は変わらなかった。前作『つけびの村』は新興プラットフォームのnoteで発表した課金記事から火が点き、書籍化が決まった。

「もともとは、とあるノンフィクションのコンペに応募するために書いたのですが、賞の選考ではあえなく落選でした。それで、どうしようかと。せめて取材費の一部でも回収できればと思って、課金ができるプラットフォームを探しました。結果的にnoteを選んで、最初の2回を無料、続きを有料にしたところ、多くの方の目に留まり、晶文社から書籍化の話がきたという経緯です」

――これによってnoteの名は飛躍的に高まったが、運営母体であるピースオブケイク(現note株式会社)が課金プラットフォームの本丸として考えていたケイクスは記事の炎上を繰り返してつい先日、サービスの終了にいたった。そして今、高橋さん自身はnoteよりも、ニュースレター配信サービスのthe Letterの方に力を入れているように見える。
「定期的に配信するのはかなり大変ですが、どういった内容をどれくらい配信すれば読んでくれる人が満足してくれるかを考えながら毎日手探りでやっています」

――今度の新書『逃げるが勝ち』も、刊行までの道筋は独特だ。

「スタートは週刊誌の企画だったので、書籍化を考えていたわけではないんです。『週刊ポスト』の編集さんと打ち合わせしていたときに、日本中を騒がせた逃走犯の手記が取れたら面白いよねと盛り上がって始まりました」

――2018年、大阪府・富田林署の面会室から、アクリル板を外して脱走した山本輝行(仮名)は、日本一周を目指すサイクリストに偽装して、全国の優しい人々をだまくらかしつつ逃げ回った。あるいは、塀のない刑務所として知られる松山刑務所(大井造船作業場)の寮の窓から飛び出した野宮信一(仮名)は、離島に点在する空き家を利用して、延べ1万5000人もの警察官を手玉にとった。ともに、誰もが知る逃走犯だ。

「山本は面会時には、かわいい後輩キャラみたいな腰の低い印象だったのですが、文通になるとオラオラというか、取材者泣かせでしたね。いろいろ要求を出してきて。ホリエモンに連絡をとってほしい、とか。

野宮については、個人的には、人間的な反省の気持ちがあるように感じました。あの事件をきっかけに大井造船作業場のシステムが変わったので、彼の逃走には意味があったようにも見えますが、ソフト面だけでなく、開放的処遇施設の意義を損ねかねないハード面での変更までおこなわれてしまったので、やや複雑な気持ちです」