酵母が糖を食べきる
では糖質ゼロのビールを実現するにあたり、どんな部分に注力したのだろうか。
「糖質をゼロにすることにおいて、特に注力した点は2つあります。まずひとつ目は、ビールの主原料となる麦芽の選定です。ビール作りにおける麦芽の役割は、麦芽に含まれる酵素の力で、高分子のでんぷんを、低分子の糖に変えることです(このプロセスを『糖化』という)」(森下さん)
この糖が酵母のエサとなり、アルコールが生成されるのだが、実は糖化の段階で大小さまざまな大きさの糖が存在しているのだという。
「小さな糖は酵母が残さず食べてくれますが、大きな糖はビール中に残ってしまいます。今回の開発にあたり、酵母が食べ残してしまうような大きな糖をどうすればなくせるか を考え、『酵母が食べ残すことがない小さい糖』に分解してくれる麦芽と最適な糖化条件を選定しました」(森下さん)
この麦芽の選定にかかった時間は3年半。さまざまなタイプの麦芽を取り寄せ、分析、仮説、検証を繰り返しながら決定したという。そして2つ目に注力したのは、アルコール発酵を行う酵母である。
「糖質ゼロを達成するには、麦芽の酵素によって小さく分解された糖を、酵母が食べきることが条件となります。自社ビール酵母の中から、通常のビールに比べて厳しい管理をされた、糖をせっせと食べてくれる元気な酵母を厳選しました。発酵期間は通常のビールと同様ですが、データ分析を行いながら、酵母が糖を食べきる温度を調整しています」(森下さん)